in the blue shirt 2ndアルバム"Recollect the Feeling"全曲解説

 作る行為そのものが娯楽なので、終わらせてしまうのが嫌になって完成を拒んでしまうようなきらいもありましたが、2ndアルバムがようやく完成いたしました。完成というか、まあセルフ強制終了みたいなもんですが。とはいえ、それ以上よくする実力もないくせに、「いや、これはまだ"Work In Progress"なので…」みたいな態度はよくない。

 いつリリースされるのか、それはさておき、作り手としては完成した時点の鮮度十分な状態で、忘備録として制作メモを書きました。発売日はいつなんだ…教えてくれdjnewtown…

 

【背景】

 前作はどうしても「自分がいままで作ってきた曲の中から佳作を抜粋してきました」みたいな感じの作り方だったので、次はちゃんと"アルバムのために曲を作る"前提で制作しようと決意。

 アイディアスケッチを10ネタ準備し、全体の雰囲気を勘案しアルバムタイトルを「Recollect the Feeling(仮)」に設定。テーマを決め、それに従ってそれぞれのネタを膨らませてアルバムの完成を目指した。ボツ曲は一曲のみのお釣りなしファイヤーフォーメーション。

 

【全体テーマ】

 いままでの人生で、音楽を聴いた時(別に小説や漫画、映画などでも構わない)に受けた強い感動、深い感銘をぼんやりと思い出す。具体的な思い出ではない、センスオブワンダー的な感情に向き合ううちに、漠然としているはずの「自分の好きな感じ」がなんとなく見えてくるような気がする。

 

1.Lost in thought

真っ向から初期bibioへの敬意表明。

 「"8mmカメラで撮った映像"は調子いいが"8mmカメラ風加工"はどうしてもダサい」的な問題は、この手のローファイトラックを作る際にどうしても立ちはだかってくる。ヤフオクでカセットMTRを落札してみたり本気でSP1200の購入を検討したりもしたが、ローファイな機材が好きなわけではなく、そのサウンドが好きなだけなので、なんで"そういった機材を使った音が好きなのか"を本気で考えるためにも、あえてアナログ機器に頼らず完全にプラグインオンリーでのサウンドメイクに挑戦。「その手の機材を利用した」という手続きや過程を重視するのではなく、自分の一番好きな機材(パソコン)で好きな音を目指す。"8mmカメラ風加工"的なテクスチャになっていないことを願う。

 何かに耽けるような心情を一曲目で出したかったので、平坦な進行ののちに、内向き、内省の心情が出るようにボーカルをカット。質感も含め自分のバイブスを込めれていると信じたい。

 

2.Gray herons

 元を正すとかなり古い曲。原型となる曲は4年前くらいにサンクラにあげた記憶が。事情があって去年リメイクしたが、結局世にでることはなかった。質感が本アルバムのコンセプトにあっているような気がして繋ぎの二番打者として採用。

 ギターのチューニングはDBDGBD(オープンG)で弾いていますが、これもBibioの曲をコピーしていたのがきっかけ。

 タイトルはアオサギのことである。なんてことはなく青いからアオサギなのだが、日本以外の国では青には見えないようで、他の言語ではだいたい灰色のサギという扱いをされているよう。ソシュール言語学的なトピックスではあるが、他国での灰色がこちらでは青と解釈される、みたいな現象は、欧州の音楽を参照点にしながら日本で制作をする自分に意義を与えてくれるような話であるように感じてしまう。

 音楽でも歌詞でも、はたまた他の創作物でも良いが、自分は風景描写と叙情が重なるようなものが好きである。bibioの執拗なまでの自然、風景やそれにまつわるモチーフへの愛慕は、身を置いている環境からインスパイヤードされたものであろうが、そういうものにろくに触れずに育った人間でもいい曲がつくれる可能性があると信じたいものである。

 

3.Between us

 自分的には本アルバムでもっとも技術オナニー性の高いトラック。自分のボーカルエディットのスキルをひけらかしたいという浅ましい感情で作り始めた曲であるが、結果として結構おもしろくなったと思っています。「奇妙なノリの2人の掛け合い」がテーマ。奇妙なまま終わる予定のはずが、個人的な願望が反映されてしまったのか、にこやかな感じに着地する展開に。お互いの親睦のために、ちょっと今夜はいろいろ話そうや、的な。まあ結局人の気持ちは分からんけど。

 ちょうどノリでIK MultimediaのシンセSyntronikを購入したタイミングだったのでフル活用。音色読み込みは結構遅いがお気に入り。やっぱ自分はサンプリング音源の方が相性がいいような気がするが、そもそも普通のシンセでのシンセサイズが下手なだけなのかもしれない。

 

4.Casual remark

 元ネタはThe Fabulous Waller Family - How Long Will I Be A Fool。いい曲。

こんな曲のクリアランスがそこそこの値段で取れてしまうなんていい時代・・・

 基本サンプル、ドラム、ベースの3トラックのみで組む行為を個人的に三点セットシリーズと呼んでいる。(前作だとWay ahead、send aroundなど。)PCに優しい省エネトラックメイクであるが、使う脳みそは何十トラックも使う多楽器アレンジとそんなに変わらない気も。2017年以降結構クライアントワークをやったが、そちらではこのスタイルはなかなか取れる機会はないので自分の作品でしっかりやっていきたい。

 cluster AのPV周りのトラブル?でサンプリング哲学にしっかり向き合わざるを得なくなったわけであるが(未だにYouTubeのコメント欄で非難され続けているので興味ある人は見てみてください)、このアルバムがそういったものへのはっきりとした態度表明になるとよいと思う。拝借するのはフレーズなのかテクスチャなのか、はたまたその向こうのバイブスなのか。おれたちが参照しているものはなにで、どこからが自分のクリエイティブなのか。

  後半の展開かなり悩んだが、なんだかんだ(当社比で)パンチのある曲に。

 

 

5.Good feeling

 原型ができたのは2012年、DAWを購入しin the blue shirt名義をはじめて三曲目に作った曲。しばらくサンクラに別のタイトルでアップしていたはず。当時はボーカルチョップのボの字もなかったのでだいぶ雰囲気が変わってしまったが。

 7年も経つとDTMの技術は上達しているが、ソングライティングというか、根本的なバイブスは何も変わってないんだなという気づきは、"Recollect the Feeling"というアルバムタイトルをつけようと思ったきっかけでもある。「根本のバイブスってなに?」という問いに対峙するには、自分がマジで感動した創作物から得た感情に向き合うとよさそうだと思いませんか?知らんけど。

 左右で鳴っているピコピコリードは当時のデータそのまま。昔の自分に感謝。ボーカルのラインも結構お気に入り。ありがとう今の俺。

 もともとギターのみで作った曲であったが、それをリハモして鍵盤中心のアレンジにしたのが果たして正解だったのかは不明。

 

6.Bamboo leaf

 かつて上野公園のイベント告知動画用に制作したトラックが原型。ほぼそのままボーカル足しただけ。アルバムの前半と後半の間の箸休め。

 上野といえばパンダ、パンダといえば笹。そういえばおれは未だにシャンシャンを見に行けていない。そしてまさかアルバム購入特典がパンダグッズになるとは思わなかった。

 

7.Fork in the road

 「アルバムを作る上で自分のためのご褒美要素が欲しいな…」ということでバンドでの生録前提で作曲。ギターは心の師匠igrek-u氏、ドラムスは現バレーボウイズの武田くんに頼むつもりであったので、自ずとベースはイサゲンに決まる。

 自分の身の回りの人間の中でも武田くんは抜群に優れたドラマーだと思っていて、前々から彼に6/8の曲を叩かせたいと思っていたのと、(個人的な好みなだけかもしれないが)igrek-u氏のギターが映えそうなアレンジしたいということ、そして中高時代に聴いていたような邦楽のギターロックへのリスペクトを込めようという3点を元にデモを作成。基本そのまま弾いてもらいつつ、各パート自由にしてもらって良いですという方式で制作。

 u氏には曲中に2回あるギターソロを丸投げ。前半ソロのフレージングは見事の一言。エンディングも、アンプマイク録りの際にエアー直録のマイクを立てて頂き、ハウりっぱなしのチャンネルを作成していただいたお陰で前のめりのバイブスが醸されています。改めて感謝。ギソロ以外は私のアレンジ準拠で弾いてもらってます。高校生のおれに伝えたい、「10年後お前が作ったフレーズをUさんが弾くぞ!」

 武田くんはドラムセットの世話をライフワークとしているからなのか、生ドラムセットのサウンドメイク能力が謎に高く、その面でもだいぶ助けてもらいました。叩ける奴はたくさんいるが、彼ほど生ドラの音作りを意思もってちゃんとやれる年下を自分は知りません。フレーズを丸投げしただけでなく音色の選択もほぼお任せ。

 録音時のスネア選びも60sのGretschの4157が良いのでは、と提案してくれたのも彼。のちにデモに近い音色の70sのludwigの402を試すも結局前者に決定。

 チューニングやミュートでの調整や録りのプリアンプ替えて音がどう変わるのかなど、自分が全くわからない部分をプレイヤー武田くんとエンジニアの谷川氏には多分に面倒を見ていただきました。最終的に選ぶのは自分、非常に恐縮ですが、ノリとフィーリングでいかせていただいた次第。

 ミックスは自分で基本やって、得能氏に社会性を注入していただくスタイル。生ドラムのミックスはおもしろい!マイクのアンビでの生エアーと、pro-rのショートリバーブでの整然としたルーム感。興味は尽きないですね。

 

8.Cast off

 個人的に絶望真っ只中でガンスピりしている最中に作った曲。怨念満載、この曲聴きかえす度にそのときの気持ちを思い出せるように・・・

 人生第二部、やっていこうという願いを込めてのタイトル。この曲なくしてこのアルバム成立せず。

 最近はボーカルエディットの作業がろ過のように思えてきて、意味のある言語で歌われた歌唱をふるいにかけて、意味のみを取り除き、バイブスとフロウ、メロディだけを濾し取っているようなイメージを持ち始めています。

 たまにろ過をしきらずあらごしにする事で、意図的に意味を残すのもまた乙で、この曲ではろ過しそびれた「follow me」「only you」というフレーズが執拗に繰り返されるわけです。クロマトグラフィーのピーク分離みたいなもん。我ながらキモい行為だと思うがやめられず。

 

9.On a Saturday

 これも古く、元を正すと18の時の宅録ファイルが元ネタ。前作Mellow outと同様、おれの奥底に眠るインディ、ギターポップマナーに乗っ取って作曲。

 とは言ってもアレンジ詰める過程でロック臭がぼちぼち脱臭された気がするが、それは最近の自分のモードなのかもしれない。この曲のテンション感はおれの音楽に求めるテンション感ほぼそのまま。

 

10.Rivebed

 テーマは淀川。デモ作って一年ほど放置しているうちに、tofubeats氏がRiverという大名曲を生み出してしまいお蔵にしようか悩んだが結局採用。

インスタグラムでフォローしているダンサーの方が、河川敷などで何気なく踊っている動画を見るのがすごい好きで、それに強いインスピレーションを受けています。

 なぜか昨年トレンドかのような扱いを受けたローファイヒップホップのシーンにおける作法を、自分は基本的に"拝借"であると解釈していて、それはそれで好きだが、一方で今回したかったのはあくまで"再構築"である。

 ローファイヒップホップシーンでは、アングラで居続けるのか、売れたが為にグレーな領域から足を洗うのかみたいな選択をめいめいがしはじめるような時期になっているようなきらいがあるが、これは常々言っている"サンプリングで徳を積む"フェーズを経たもの特有のライフステージである。"拝借"で作られたサンプリングトラックに手弾きでの接近を試みるみたいな循環もおもしろいが、今回の自分のアルバムも、"サンプリングで徳を積む"行為の経ての作品であると考えていて、彼らはみな同士のような気分。

 エモい気分はあくまで一時的なもので、センチメンタルもそこそこにシラフに戻ってこその日常やね、みたいな感じでアルバムが締められればと思って作りました。

 

 最後にサンプリングという行為に関して。

 自分の引き出しにない要素を手に入れる一番手っ取り早い方法は、既存の、他人の業績を拝借することである。そしてその拝借は、油断をすると見事に品のない行為になってしまう。

 自分はきな臭い制作スタイルを取っているが故に、日々引用の倫理とがっぷり四つなわけだが、現状そういった中で、心に打ち立てたスローガンが"巨人の肩の上に立つ"ことである。Google Scholarを開くたびに「なんと素晴らしい言葉なんだ・・・」と打ちひしがれる日々・・・

 先人の偉業の肩に乗り、遠くの景色を見ようとする上で、常に忘れてはいけないことは、「それによって自分が大きくなったわけではない」という自覚を持つことと、「正しい手続きを経て巨人に乗せていただく」よう努めることである。

 そんな態度を、気持ちをどうにかして示せたらな、という思いで今作は制作しました。今回はリファレンスに可能な限り自覚的になること、リーガルな方法でサンプリングを行うことを一度徹底してみました。引用、参照という行為に少しずつ誠意を持って向き合えるようになるための礎になればという気持ち。健やかに遠くの景色を望めるといいですね。

 せめて自分が常々している"サンプリングで徳を積む"という発言が、違法行為の肯定みたいに捉えられることだけは避けたいな思います。知らんけど。

 

  そして2dnアルバムの完成、それはすなわち3rdアルバムの制作開始を意味するのである・・・