無題

4月某日

去年のおわりから近所の個人経営のピアノ教室に通いはじめたが、なにをはじめるにも遅すぎることはなく、これがとても楽しい。ふと先生が「DTMを教えてほしい」と言い出し、無料のソフトの存在などを伝えたが、ある日突然有料のDAWと88鍵のmidiキーボードを買ってきたので私はあっけにとられてしまったけど。よくわからない世界に引き込んでしまったわけであるし、いい機会なので使っていないオーディオインターフェイスなどを全部あげてしまって、ピアノ教室にいる時間の半分をお菓子を食べながらおれがDTMを教え、残り半分でピアノを教えてもらうという奇妙な生活がはじまりました。自分が音楽を作っている期間の何倍もの時間をピアノに注ぎ込んできた人間が努力の末に獲得した技術から比べると、ひたすらGoogleのお世話になり続けただけのおれの技術なんてゴミくずみたいなものではあるけど、ある種win-win(であると信じたい)のこの知識の交換を通して、音楽という巨大なものに向き合うにあたって、全く違う関わり方をしてきた人の考えていることが少しずつながらもわかっていくのは、視界が開けていくような体験のように思える。

 

5月某日

ゴールデンウイーク、アパレルブランドGapの1969recordsキャンペーン用に曲を作る。学生最後のGWにも関わらず、ほぼ家から出ることなくDTMしているのもどうかと思うが、ここ数年を振り返ってもだいたい似たような過ごし方をいるような気がする。過去は自分を映す鏡。おれは家から出ない。instagramの投稿上限が15秒であった頃、枠に収まるよう制作動画を上げるという謎の遊びにハマっていたおかげなのか、短い曲をたくさん作るのはなかなかに楽しいものであった。今回も含め、音楽の仕事をくれるのは意外にも音楽以外で知り合った人経由なパターンが多い気がする。関係のなさそうなことが様々なところに生きていくのは人生という感じがしてよい。知らんけど。

 

6月某日

謎のうぬぼれを持ってはじめた就職活動、真剣に就職に向き合っている人からにじみ出るバイブスとの差は歴然、ことごとく面接で落ちまくる。あげくの果てに一番行きたかった楽器メーカーには書類で落とされ失意の底に。社会をなめていただけの当然の帰結ではあるがなかなかにへこんでしまう。ちゃんと現実に向き合った頃には17卒就職戦線も佳境を迎えており、減りゆく選択肢に怯えながらかろうじて就職先を決める。”縁がなかった”などとよく言われるし、その通りだとは思うんだけど、それを受け入れるのに時間がかかってしまったのは、大学生活を通して自分本位の内省的な生活をしすぎた反動か。後悔しているわけではないが、なにもかもを自分の思い通りにコントロールできるわけではないという当たり前のことに向き合うことになった次第。そして就職活動がすべて順調にいってたら起こりえなかったことなども発生したりしなかったりするわけである。こういうの人生という感じがしてよい。知らんけど。

 

7月1日

しばらく帰国しているTREKKIE TRAXのセイメイが大阪にやってくる。某人曰く「特殊なコミュニケーションの取り方をする」と言わしめるこの男、頻繁に会うわけではないが、会うとどうしても真面目な話をしがちである。こんなにもお互い日々ふざけているのに。気づけば優作(soleil soleil)がブッキングをやっている地下一階で、久しぶりにクラブイベントなる娯楽にいそしんだわけである。就職活動でずいぶん音楽から離れていたので楽しくなってしまい、ついお酒を飲みすぎてしまった。会うや否やヒロキヤマムラ先生が「jukeしようやあ・・・」と言ってきたわけだが、彼がBig Dope Pのトラックから繋いだ自作のトラックがかっこよくいたく感動してしまった。最近その辺の音楽を聴いているうちに自分はシカゴ感が好きなことが分かってきたような気がする。シカゴ/・ゲットーハウスからjukeへ、行ったこともない街の漠然とした”ぽさ”、音楽ではよくあることであるが、言語化するのは難しいが確かに存在するそれをなんとなくわかったような気にさせられてしまうのは不思議なものである。UKっぽい、USっぽい、日本っぽいみたいなのからはじまって、インターネットのおかげでそのくくりを内から外から徐々に小さくみていけるみたいなのはおもしろい。単語がグループ分けされていてそれの法則を当てるクイズみたいな。知らんけど。

 

7月15,16,17,18日

イベント2本出るために東京へ。恐ろしいことに音楽で東京に行くのは2月ぶりであるが、就職活動も含めるとなんだかんだで毎月行っているわけで。これが東京。知らんけど。わりと好き好んで夜行バスにのる私ですが、気晴らしにじゃぶじゃぶ金を使いたかったので、移動は優雅に新幹線、友人のお世話になることなくちゃんと金払って宿もとって散財モードに切り替えたはずが、道玄坂リンガーハットに無意識に吸い込まれて行ってしまうあたり自分の器の小ささがにじみ出てしまう。渋谷でのほどよい贅沢のしかたがいまだにわからないままである。trackmaker、トレッキー周年どちらも楽しかったです。みんな特に久しぶりな気もしなかったし。知らんけど。空いてる時間はパーシー&高橋と楽器屋めぐったり順当に就職していったかつての大学の友人たちと飯食ったり上野動物園に行ったりしました。余すことなく全部楽しかったのは結構すごくて、時間を無駄にすることで心身のバランスをとっている自分からすると革命的な4日間だったような気も。脳裏にリフレインするは”初恋とはなんぞや”というフレーズ。知らんけど。