無題

 本日4/24に、私の新しいアルバムが出ます。ライブ、現場はそれはそれで楽しいけれども、やはり録音物は別物で、共感や、大人数での一体感など抜きにして、1人でゆっくり聴いていただけると非常に嬉しいです。自分が作ったアルバムを、別の誰かが1人で聴いて、何かを感じてくれるようなことがあれば、それが一番幸せに思います。自分は頭お花畑なので、自分の曲を好きで聴いていてくれる人とは、それだけでそれなりに気が合うと感じてしまいます。知らんけど。

 楽器を弾いてくれたisagen、武田くん、Uさん、流通のせるまで面倒見てくれたミツメの川辺くん、いっつもデザインやってくれてる猛、マスタリング担当していただいた得能さん、人生相談やTTHWでのプロモーションでお世話になったトーフさん・・・あげるとキリがないけど、マジで皆さんありがとうという気持ちでいっぱいです。ほぼ一人で作った音楽作品なのに他人への感謝が止まらない・・・月並みですが。

 

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3月某日

 マスタリングをお願いしていた得能さんには2mixだけでなくステムも送っていて、こんな感じでどうかといった提案までしていただいた。それに対して自分は一貫して「もう少しリバーブをあげてください…」と言い続けていただけであり、それがサウンド面でのアルバム最後の作業であった。ライブセットはともかく、普通の音源でのリバーブへの執着が人より強い自覚はこれまで特にあったわけではなく、客観的な視点が入ると自分の平均からのズレを認識できてよい。tofubeats氏曰く「気合いとはズレ」。

 そうしてアルバムの曲が晴れて完成したわけであるが、やりきったという感覚は特になく、自分の引いた線で区切っただけという認識である。多分自分はこれからもそんな感じなのであろう。

 完パケ記念にパーっと行くぞ!とバーミヤンに行き1人飯を食らう。パーっといくはずが、いざ会計してみると、普段よく行く王将よりも安くついてしまった。

 

3月某日

 スーパー高校生ヤックルのアルバムリリースパーティでジュール。なかなかジュールにブッキングされることなんてない上に、お客さんも出演者も10代の人たちがたくさんいて、楽屋に行くとアイドルが代わる代わるスタンバイしている…といういつもとは違うシチュエーション。

 テレビ出演を果たしたばかり、この前まで中学生だった三阪咲さん、RO JACK入賞した高校生の音楽かいとくんと喋る。SNSの話や、音楽かいと名義の名前の由来など…今後、自分の比にはならないくらいに活躍するであろう彼らは、自分とは明らかに異世代なので新鮮である。10コ下!手放しにみんなすごい。自分がそれくらいの年齢の頃を思い返してみると、神戸元町サイゼリアで騒ぎ、西宮北口ブックオフで買ったCDを家でブヒブヒ聴いていただけである。

 後半なぜがクラブの出音が異常に小さくなってしまい、いかんせん煮え切らぬまま自分の出番が終わりそうになっていると、次のアクトであるDEDE MOUSE氏が、お客さんを煽ってステージの上に乗せてしまった。その局所的な人口密度とみなれぬシチュエーションのままライブを開始。音量が元通りになり、ハコの人にステージから降りるよう促されるまでの十数分、会場は見事にピースフルな雰囲気に包まれていた。憧れて音楽を聴いていた先輩に、別の角度から地力を見せつけられると、自分の至らなさを痛感すると共に、さすがだな…という気持ちになる。

 そんな先輩後輩との場を与えてくれたヤックルが、トリのアクトでヨーヨーをプレイしているのを眺めながら、彼のこれからの活躍を願う。いいやつなのできっと前途洋々であろう。

 「ということはさ、高校の進路希望の紙に"アソビシステム"って書いたの?」という自分のくだらない質問に対しても、彼は「そうなんですよ〜」と涼しい顔で返事をしてくれたし。

 

3月某日

 Yahoo!ジオシティーズがサービス終了してしまったため、synth1を配布しているサイトにアクセスできなくなった、とのニュースをみる。泰明がTwitterで「synth1で減算シンセの使い方を覚えた」というようなことを言っていたが、自分もまたそのような人間の1人であり、さらに言うと世の中にはそんなやつがいっぱいいるのであろう。

 フリーで良質なソフトシンセを公開する、それに対して懇切丁寧なチュートリアルが公開され、そして、パソコンはあるが金はないようなキッズがシンセサイザーのイロハを学ぶ。そして音楽という人生における表現ツールを獲得する人間が出てくる。インターネットは"てこ"のようなものであるなとしみじみと感じてしまう。インターネットの"てこ性"をどう使うかは、使い手次第である。

 synth1がシェアウェアとして金を取り出したとしても、価値と価格の釣り合いを鑑みても文句を言う人はいないだろう。とはいえ、無料で配ったからこそ起こったこともまたたくさんある。

 「金を取らないクリエイターがいるせいで市場価格が下がる」みたいな話題は定期的に上がるが、無料(安価)でクリエイティブをばら撒くことでしか起きないことは確実にあるし、それは必ずしも全体の不利益を起こすわけではないと自分は考える。事情や目的はめいめい異なるわけであるから、金を取るも取らないも自由に決める裁量を持てること、そしてそれによってそれぞれのニーズがうまく満たされるような状態が一番健康的であると感じてしまう。

 

 事あるごとに「誰かの善意が他の誰かの人生をドライブしていく」みたいな話ばかりしていると、そんなのはきれいごとで、頭お花畑の性善説であると思われることもある。

 自分は偶然その善意を享受できただけで、その成功者バイアスで物事を語られることを不快に思う人もいるかもしれない。それに関しては、深々と頭を下げるしかないと思う一方で、それでも「後生や…この考え方でやらせてくださいな…」というスタンスである。

 偶然にも、善意を信じられるくらいに人によくしてもらった人生、善意で回させていただけませんか、そう願わずにはいられない。

 

3月某日

  TTHWの収録のため京都へ。案の定、知らない機材で簡単にイケてる曲が作れるなんていうのは驕りでしかなく、ゴミみたいな曲を作ってしまったが、自分の実力なんていうのは間違いなくそんなもんである。

 制作を終えて大浴場へ行き、いつまで喋んねんというくらい話し続けては深夜未明に就寝。朝風呂ののちコメダ珈琲に行っては、またいつまで喋んねん状態に。流石に若干の疲れを感じたまま、むき出しのおしゃべりキーボードを小脇に抱え一旦帰宅。しばし仮眠したのちに京都メトロへ。

 満を辞して再生される TTHW制作曲。自分の最後の曲のアウトロに重ねる形でふめつのこころのアカペラをリアルタイムでマッシュアップするトーフビーツ氏。なぜこうも先輩たちはごまかしのきかない場面でリアルな実力を見せてくるのか…自分も昔に比べるとマシにはなっているはずだが、地力を見せつけるどころか、正直至らなさが出てしまう場面の方が多い。精進しないといけない。

 楽屋でTEI TOWA氏が皆に興味深い話をしている横で、恐縮しきりで子犬のような顔をしているうちに、あっという間に朝になってしまった。

 

4月某日

 会社の花見があり、なけなしの社会性を持って参加する。会社に山ほどいる同世代を遠巻きに眺めながら、「みんな普段なにしてるんやろ…」などと考える。これまでそんなことを思ったこともなかった自分であるが、ここまで周りに興味を示さず来てしまった自分はすごい嫌なヤツなのではないかと急に考えてしまった。会場の桜は開花の遅い八重桜であり、その日はほとんど咲いていないままであった。

 

4月某日

 サラリーマンの自由時間である土日はひと月に10日あまりしかなく、自分のキャパを鑑みて、イベント出演以外の日を計画的に制作仕事に割り振るわけである。

 この日はonepixcelのシングルに収録されるリミックスを作るために確保されており、PC作業とウーバーイーツのみの休日を過ごすつもりであったが、地方統一選挙ということで外出をすることに。お日柄も極めて良好で、「選挙の日って、ウチじゃなぜか…」のテンションでゆっくり外食でもしたかったが、一瞬で投票を済ませ、結局15分ほどで帰宅してしまった。

 近頃はアルバム制作などをずっとしていたこともあり、ここ最近家の窓やカーテンをほとんど開けていないことに気付く。カーテンも窓も全開にし、「なんで心地よい日なんだ…」と空を仰ぐ。結局その日はなにもする気が起きず、ストレスフリーと時間をお金で買うんや…とウーバーイーツでカツ丼を呼びつけてはかっ喰らい、結局そのまま寝てしまった。

 休日の怠慢は平日へ、結局仕事終わりの深夜に曲を作るハメになる。計画通り物事を進められるような人間であったら、そもそもこんな人生になっていない。

 

 

4月某日

 京都メトロにてALPS。3ヶ月連続のメトロであるが、特に飽きる気配もない。

 クラブイベントというものは、人は集まったものの、みなのシャイさの牽制しあいにより、大盛り上がりせぬまま終わることがままある。それはそれで乙であるが、東京の音楽好きな酒飲み集団が主催のALPSというイベント、そこそこの人数いる主催自らが、掛かる音楽に大喜びし、酒を飲み、踊り狂うのである。その画期的なシステムにより、おのずと勝手に場が温まるという演者フレンドリーな布陣であり、この日も例外ではなくそんな感じであった。

 12時オープンという狂ったタイムテーブルとともに、出演者たちのナイスアクトが繰り出されていく。あまりにも他のみんなが良いので、夕方以降、トリの自分は途中から柄にもなく緊張しはじめていたのであった。

 「楽しみにしていますね〜」と声をかけてくれるお客さんに「絶対後悔させますよ」などと意味不明な妄言を吐き、物販を買いに来た人に無料で商品をあげてしまうなど精彩を欠く行動を繰り返しているうちに自分の番がやってくる。「さーてやりますか…」などと気合をいれ一丁前にステージに上がる一方で、自分のすることなんて再生ボタンを押すことくらいである。

 気づけば良い感じの雰囲気でイベントを締めることに成功したが、それはみなさんがいいヤツだったおかげであろう。知らんけど。

 

 TTHWの1話でseiho会の話をしているが、当時INNITやidle momentといったイベントに遊びにいくようになった時期、「すごい音楽を作っている人に作りかたを教わりたい」みたいなマインドでいた自分に対して、そこにいる人たちはみな一貫してフラットに"音楽を作っている友達"として接してきたことは自分にとって大きな転機であったように思う。

 「ステージに上がるためには必要なレベルみたいなものがあり、それを自分は満たしていない」みたいなことを考えていた自分に対して、「ソフマップ行って安いラップトップ買ってきてライブしなよ」と言ったのはand vice versaの久保さんである。それを受けて5万握りしめて買ったthinkpadを使って、初めて人前で自分の曲を再生したのはちょうど5年ほど前である。

 

 そんな感じで「早稲田茶箱の新作発表会みたいなやつを関西でやりたいんですよね…」と言い続けるも実行できないまま早一年、ストーンズ太郎が手伝ってくれたおかげで有村プレゼンツのDTM会第一回が5/25に京都シエスタで開催できそうです。チャージフリーにできればと思うので、音楽作ってる人は持ってきてください。詳細は追って告知します。善意で回すぞ!オラッ!!!