POTLUCK Lab. vol.2振り返り

POTLUCK Lab. vol.1
【日時/場所】
8/24(土)13:00〜19:00@京都METRO(https://www.metro.ne.jp/)

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【開催会場選び】
 前回、炎の2Days開催の憂き目にあったため、キャパ60人以上で会場を探す。

・一般的なイベントスペースではなく、クラブでやる

・自分たちがよく出演する会場を選ぶ

の2点は太郎となんとなく合意しており、しっかりしたサウンドシステムで自分の曲を聴いてほしいということと、一度行ったことがある会場には遊びに行きやすい、これをきっかけにクラブイベントに遊びにいけるようになってほしいという意図であった。

 1回目開催時に、メトロ勤務のトラックメイカCeeeSTee氏が遊びに来てくれており、条件面から環境づくりまで相談に乗ってくれたうえ、ちょうどいい時期の週末デイタイムをおさえることができたので、第二回は京都メトロで開催する運びに。

 可能であれば今後も場所を変えて実施して行き、”おれらが出るようなクラブにだいたい一回は行ったことがある”状態の人を少しでも増やすことで、ハコ側、我々プレイヤー、お客さん三方よしのイベントになることを目指したい。

 とはいえ、変則的な催しの為、他会場で今回のようなレベルの理解とサポートを毎回期待するわけにも行かない、いろいろ検討中である・・・

 

【環境】

f:id:Arimuri:20190828235716p:plain 会場環境は上記。機材は前回揃えたので、今回は基本的に配線を考えるのみ。配信に関しては、マイクはPA宅から分けてもらい、その他音声は全部DJミキサーに突っ込んでBOOTH OUTで配信するという運用。多面的に相談に乗っていただいたCeeeSTee氏およびメトロにはただただ感謝。

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 80人をいかに不快な思いをさせずにメトロに収容するかも難しく、ステージにブルーシート敷いてお花見席にするなどの苦肉の策。持ち込みは配信機材一式と、入り口付近に設置した小モニタ、配線類、ブルーシート。でかいブルーシートはマジで持ち運びがだるいということを思い知るなど。狙い的には概ねうまく行った。設営、撤収に関しての当日の段取りは考えが甘くファイヤー状態。配信はおれのオンボロThinkpadSSD換装し挑む。速度十分のメトロの有線LANを使用した関係もあり快調でした。

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配信画面


 

【参加登録】

 前回に引き続きGoogleフォームでの参加。定員は80人に設定。

・本編参加可否

・飲み会参加可否

・音源送付

をまとめて実施。Googleフォームでのスクリプト利用の方法がなんとなくわかってきたため、集計したり、定員で受付を締め切ったりなど、簡単なことならできるようになった。

 前回、メールやSNSで持ち込み音源を受け付けたがゆえ、イベント直前に五月雨式に音源がなだれ込みカオス状態になった反省から試験的にGoogleフォームでの音源送付を受付。全部で40曲ちょい来た

 今回の大きな反省点の一つが

・ファイルフォーマットの指定をしなかったこと

・ファイル名の付け方の指定をしなかったこと

である。今回持ち込み音源視聴会はUSBに入れてCDJに読み込む方式で実施したが、かなりの曲数がCDJ2000nxs非対応のフォーマットであった。把握していた分はこちらで前日に変換作業を実施したが、変換漏れもあり、当日に太郎のPCから直接再生する形をとった。

書き出し形式のことを意識することがない人も多かった為、次回からは

・Waveファイル(48kHz / 24bit)

・mp3ファイル(320kbps以下)

で受け付けるようにことにするつもりである。 

 ファイル名に関しても、登録したファイルがただGoogleドライブのフォルダに放り込まれていくだけの仕組みであった為、ファイル名がまちまちで当日に名義と曲名が正しく把握できなかった。送付時の登録名をエクセルシートにでも落として、送付された音声ファイルとの対応をとるまでの余力はなく力尽きてしまった。そこまで気が回らなかったこちらの落ち度である為、次回はお作法の指定をしようと思います。

 

【登壇者】

 クラブ開催なこともあり、クラブ/ベースミュージック最前線の人材としてCarpainter、前回も誘っていたが叶わなかったMeteme氏、生楽器録音、歌モノ制作枠という側面に加えて女性のパイ拡大という役割を勝手に背負わせたゆnovation。人選もブッキングもあっさり決まって平和。全員プレゼン的なことをしてもらうのに不安がなかったため特に内容に関しては丸投げし心配せず。

 前回あまりにもDJツール的な曲を作る人がいなかったうえ、クラブに行ったことがないという人も多数いたので、同世代で、広いジャンルがカバーできる実力派ということCH.0くんにも声かけ。mixの妙を知ろうという意図でDJをやってもらいました。KID FRESINO氏とのパーティ主催、ラッパーのバックDJとしての経験など、お話聞く時間も設けたかったが今回は泣く泣く割愛しDJのみ。

 

 【イベント当日】

<集客>
 来場者数は70人程度。最悪60人くればなんとかなる、という勘定であった為なんとかなったが、やはり直前キャンセルは多く、多めに受付をするべきであったかもしれない。だからと言って人が来すぎてパンパンできつい、というのも厳しく難しい。ワークショップは、本質的に人が少ない方が快適という性質もあるし。

<本編>
 登壇者およびDJは文句なしで頭が上がりません。前提知識がなくても楽しめて、かつ第一線で音楽を作っている人が聞いても興味深い、という絶妙な題材でかなり満足。

 休憩をふんだんに挟んだ、ゆとりをもったタイムテーブルにしたつもりが、当日は結局かつかつであった。結局音楽の話をしていると楽しくなってしまうので長くなりがち。視聴会は「送付曲全部かける」ということだけ決めていたが、計画よりも一曲に当てられる時間が短くなってしまったのは反省。

<飲み会>
 馬鹿正直にGoogleフォーム登録の人数で予約してアホほど赤字。おもろいので続けたいが、正直きついのでうまいやり方を考えないといけない。当日まで人数あやふやでもハコ貸ししてくれる都合の良い飯屋とかあるんだろうか。

<収支>
 試験的にやったpaypay投げ銭では1万程度あつまりました。感謝。トータル収支はやや赤字。ほぼ飲み会が悪いが・・・ 

<イベントレポ>

takawo.hatenablog.com

毎度おなじみのTakawo Shunsuke氏(@takawo)のレポ。

katlog.hatenablog.com

 かっとくん(@Ka_t_)も感想くれてます。ありがたや。

htb712.hatenablog.com

個人的に今後を期待しているHYPER THANKS BOMB氏(@TGInotF)も記事書いてくれてます。

はてなで感想書けやみたいなお作法があるわけではないです。ネットで好きな形で感想もらえれば可能な限り読みます

 

 【所感】

 毎度おなじみ、無事にイベントが終了して良かった。準備している際、懸念点が出るたびに、太郎と「いやでもPotluck Labにくる人はみんないい人だからいけるやろ・・・」などと言い続けていた。実際そうであると思うし、人の善意で雰囲気がよくなるのはいいことであるが、それにかまけてばかりではいられない。

 入場料の設定はずっと悩みの種である。取りすぎるとなんか集金セミナーっぽいし・・・。毎度言っているが教える側と学ぶ側、みたいな構図には意地でもしたくないのである。自分はコミュニティが作りたいだけで、トップダウンでの情報供給、すごい人が技術を教えてくれる、ありがたい話をしてくれる、的な雰囲気にはしたくないのである。

 となると理想は「経費を参加者で総カンパ」では…という考えもよぎるが、そうでもない気もしていて、意思決定と金は基本有村が全部やり、相談役と各種サポートをストーンズ太郎にお願いするという今の体制は結構調子がいいのではと思っている。なるべく意思決定者を減らして、あくまで有村の趣味の催しとしてやる方が、なんかあった時に責任の所在も文句のいう先もわかりやすくてよさそう。

 Metomeさん周辺の人たちと知り合ったころ、自分は彼らのことを雲の上の存在のように捉えていたが、彼らが一貫して平行な目線で話をしてくれたおかげで自分は今に至っていると思っている。過剰に見上げてもいいことはなく、コミュニティを作り気軽に会話をすることと、作る音楽にリスペクトを払うことは共存できる。練度に差はあれど、人によって作る音楽は違う。一様な評価軸があるわけでもないので、交流はお互いにメリットがありがちであり、し得である。

 随分昔、マルチネの社長のtomadさんに「誰とも接点を持たずにやばい音楽を作ってる人って各地にどれくらい存在していると思いますか?」みたいなことを聞いたことがあるが、「いや、ずっとこういうことやってますが全然いないですよ」的な返事をもらったことをよく覚えている。"誰とも接点を持たずにやばい音楽を作ってる人"がいないとは思わないが、創作者同士の交流が何かをドライブする感じというのはやはり存在し、それが重要だというのは自分も感覚的にもっているので、そういう会にしていきたい。

 

 「どうやったらクラブイベントとかにでれますか?」ということもたくさん聞かれたが、あるレベルに到達したらクラブイベントに呼ばれます、みたいな性質のものでもないので、金出してハコ借りてイベントをやってしまえばいいやんとは思います。とはいえ、右も左もわからん人に丸投げするのは酷なので相談とかしてくれれば。

 なんかその手のイベントのオーガナイズしてくれる人がいればな・・・という気持ちも。自分もできる範囲で考えます。

 現場出演は別に必須でもないので、お家でやっていく勢もがんばっていきましょう。

 

アーカイブなど】

 動画のアーカイブは取り扱いを検討中なのでyoutubeではいったん非公開にしています。写っている人も多いし内容もいろいろあるので・・・集合知は残してナンボなのでうまいやり方は考えたいです。

 参加者のかたには動画を共有したい気持ちはありますが、前回不本意な拡散などもあったりしたので今んとこはナシよりで検討中です。とはいえこちらもうまいやり方があれば・・・。

ゆnovationとCarpainterの登壇資料は以下に置いておきます。(こちらも引き上げ可能性あり)

archive - Google ドライブ

 

 

【今後】

次回は一旦未定。

配信機材もあるんで有村自宅でワークショップ+DJ+雑談的な配信でちょこちょこやりつつ英気を養おうという算段です。演題持ち込み歓迎なのでやりたい人は連絡ください。

 今回みたいな規模でやるとアーカイブ公開にいろいろ障壁とかあったりするので、少人数/小規模でやってナレッジベースとして確実にアーカイブを公開して残していくというのもやっていきたい気持ち。

まあどうせ第三回もすぐやりたくなるような気もしていますが。

 

すらりん(@slarinar1)が写真を撮ってくれたので置いときます。ありがとうな

Potluck Lab vol.2

無題

 変分原理への理解を進めることこそが必要とされているのに、「光はまっすぐ進むんです!!!!」のほうがウケがいいので、意図的にレイヤーを下げてそれでわかった気にさせる、みたいなムーブを軽蔑していきたいものだが、怠惰さから低きに流れてしまい、気づけばそうなっている自分に悲しくなることが多い。

 入門者向けの導入や、噛み砕いた解説などはいつだってありがたいが、誰が作ったかもわからない簡易なフローチャートで支持政党を決めるような楽ばかりをしていると、人生の本当にエキサイティングな部分を落としてしまうような気がしてしまう。そんなことを思いながらも、怠けた身体はなかなか動かないものであり、歩いて5分のマクドナルドさえ、UBER EATSで注文してしまう日々である。

 

4月某日

 聴くと直したい箇所が出てくる気がして、完パケ以降ほぼ音源を聴き直すことなくアルバム発売日を迎える。

 どれだけでかい口を叩こうが、逆にへりくだろうが、作った作品は正直であり、聴いてもらったときに感じてもらったことが全てである。「これはアルバムを聴いてくれたどこぞの誰かと、おれとの一対一の対話なのだよ…」みたいな大層なことを考える。なんかアマチュア無線っぽさがある気もする。傍受した人とのコミュニケーション。

 

4月某日

 新幹線に乗り東京へ。秋葉原に着くなり、快活クラブに吸い込まれ、何周読んだかもわからない銀牙伝説WEEDを読む。「この任侠さながらの犬模様、現代人の忘れてしまった気持ちやね…」などと考える。価値観のアップデートは三歩進んで二歩下がるよう、仲間の為に命を捨てることを美徳とする犬畜生と、定時で帰り趣味に打ち込む現代の若者の自分、なにを得てなにを失ったのか。

 かつやに入店し、ロースカツ定食を注文したタイミングで原くんから中華食う?と連絡が来る。おれは仲間の為にロースカツ定食を捨てることすらできない。

 

 リリース後初のイベント出演は秋葉原MOGRAにて。MOGRAに来るたびに、居心地もよく、音も良く、スタッフも親切で感心してしまう。クラブとしては不利と思われる立地、ホスピタリティを持って乗り越えられるのであるから素晴らしい。

 イベント後の早朝にCoCo壱へ。CoCo壱が24時間営業、みたいなところにたまらなく東京を感じる。ホテルのチェックインが夕方である無計画さを、has氏の家にて仮眠を取らせていただくというホスピタリティによって突破。

 翌日、バツくんとともにM3へ。初めて行ったが、こんなにもたくさんの人が音楽制作をしているのか…素晴らしい世の中やな…と感銘を受けてしまった。

 

5月某日

 asia出演まで微妙に間があったこともあり、池尻大橋のホテルに5泊。わざわざ楽器屋で37鍵のmidiキーボードを買い、ほぼ外に出ず音楽を作る。ホテルの清掃の時間のみ申し訳ないので外に出て、タワレコにて自分のCDの展開の様子を眺めたりなど。

 夜になると音楽を聴きながらぷらぷら歩いて友達の出ているイベントへ赴き、酒を飲んではタクシーで帰る。cluster Aのリミックスをしてくれたフランスのfusqにも初めてあったが、話を聞いて見ると見るとおれの比ではないくらいのロングステイであった。

 

 気が狂うくらいホテルでDTMをしていたため、頭がおかしくなってasiaのメインでも異常な落ち着きを発揮することに成功。ホテルで制作された謎のブートトラックが鳴り響く最中、スーさんがお祝いにシャンパンを開けてくれたが、ハイになった代償から異常に喉が渇いていた自分の脳裏に浮かぶは”水分補給”の四文字。運動部のポカリガブ飲みさながらの勢いで飲んでしまい、我に帰った頃に著しい酔いに襲われてしまった。

 

5月某日

 あと15分早く家を出ればいいだけなのに、結局ギリギリになってしまいタクシーで梅田駅へ向かう。蛍池から伊丹までもタクシーを用いるダブルタクシー発動は回避するも、モノレールからは小走りであった。

 飛行機にさえ乗ってしまえば、札幌までの空路はいつだってあっという間である。あっという間であるから遠くに来た気がしないな…などと思っていたのもつかの間、想像以上に気温が低く、そこが遠くであることに気がつくのであった。

 デイ開催、tofubeats氏のツアー北海道編を見届け、夜はvava氏のリリパ。summitの方々と共演するのは初めてであったが、vava氏、in-d氏をはじめとする面々は自分の顔を見るや一人ずつ丁寧に挨拶していただいて、オタクであるから、隠キャやから・・・みたいな予防線を張り挨拶や礼儀などの認識が甘いままである自分が情けなくなる。 

 ラッパーのライブを見るたびに、声というのは気合いというかバイブスが乗りやすいのか、その即時性というか、ライブ性というか、そういうものが羨ましくなったりもする。とはいえ、そんなものを羨む前に、自分には直すべき至らなさが多すぎるのであった。

 みな話すと音楽に対する真摯さみたいなものが伝わって来て、礼節の不足した自分もそこくらいは保っていかないといけないという気持ちに。オタクが好きなものへの愚直なアプローチを忘れてしまったらおしまいである。

 自分のアルバムの曲がEYESCREAMspotifyプレイリストに入っていて、どういう因果なんや・・・と思っていたが、話しているうちにセレクトしてくれたのはその日のバックDJをしていshakke氏であることが判明したり、増田氏がblock.fmのsummitimesで自分のremixをかけてくれたりなど、いろいろと頭が上がらない。人の目をみて音楽をするわけではないが、そういった人が聴いた時に、しょうもないと思われないくらいの強度のあるものを作りたいものである。

 翌日はパーゴルの絶望的なペース配分の食い倒れツアーの後、中川さん、太郎くんも合流して飲む。皆久しぶりな気が全然しないな…と思うが、実際問題そこまでひさしぶりではない。

 

 引き続き北海道、太郎くんの車にピックされ芸術の森へ。”森で合宿”と冠された作曲合宿。道中ハードオフに寄ったところ、でかいスピーカーの品揃えがやたらと豊富で、土地柄を感じてしまうなど。

 SNSでの粗雑な呼びかけから有志が大集合、てっきりみな知り合いなのかと思いきや全然そんなことはなく、初対面だらけで自然豊かなアトリエに集合し、PCを開いて黙々と曲を作る様子は実にシュールであった。一方で、なかなかにエキサイティングな会でもあった。曲を作ってみたいという気持ちで単騎突入して来た高校生などもいたが、興味の赴くまま、ろくに知っている人もいない状態で、森の中の小屋に来れる精神性さえあれば、もうそれだけで人生なんとかなる気がしてしまった。

 名残惜しい気持ちで途中抜けし帰宅。気持ち厚着で大阪へ。自宅に着く頃には少し汗をかいていた。

 

5月某日

 Potluck Lab.なるイベントを主催。詳細はこちらの通り。音楽をする上で特に苦労らしい苦労をした記憶もなく、先人の切り開いた領土にただフリーライドして楽しくやっていただけで、一方的に得しまくっているだけで、なにも還元できていない状態に長らく負い目を感じていたわけであるが、ようやく自分なりの方法で、開拓というか、次に繋がるようなアクションができそうな気持ちになれたのがよかった。

 きっかけ一つ、ほんの些細な出来事で人生がドライブしていくのはよくあることで、そういうきっかけになる可能性があることはやり得である。

 自分は、知っている人の作った作品を通して、そのひとのことが少しわかったような感覚になるのが好きである。そこで技術の高低はさして問題にならない。…といいながらも、ただ友達が増えて楽しい、くらいの話なのかもしれないが。

 次回は8/24です、何卒。

 

6月某日

 命からがら江ノ島へ。最近はもはや音楽の合間に会社に行っている気分である。

 一年前に、なぜか出音が微妙に変になった反省を生かし、入念にリハ。今年は気合いが入ってますからね・・・やりますよおれは・・・という気持ちを胸に抱く。

 リハを終え、開演までの時間に飯屋を探すが、江ノ島っぽいところはどこも混んでおり、目につく限りで江ノ島感のもっとも乏しい韓国料理屋へ。その店が思いの外美味い。期せずしてほぼベストチョイスであった。「世の中見ただけではわからないんですよ・・・」という気持ちで会場へ。

 自分の出番、序盤で手を上に突き上げた際にミラーボールに思いっきりぶつけてしまい、ミラーボールを落としてしまう。普通に粗相であるが、一方で会場的には変にウケて謎の盛り上がり。あとで店の人に謝らないとな・・・などと考えていたが、ふと自分の手からものすごい勢いで血が流れていることに気がつく。「DOMMUNEの時の小室哲哉みたいでワロタ・・・」と初めは気にしていなかったが、あまりにも血が止まらないので、文字通り血の気が引いていく。手から流れ続ける血、流れ続ける音楽…

 休日の江ノ島に開いている病院などなく、15分ほど歩いて最寄りのドラッグストアへ。のどかな店のアルバイト店員に手から血を流しながら「すんません、血を止めれそうなやつ適当にください」などと頼んでしまったことを本当に申し訳なく思う。

 自分が海岸で止血に勤しんでいる間もイベントはいい感じであったようで、最後の踊footで復帰して気持ちよく〆。

 

 翌日は江ノ島をゆっくり観光するつもりであったが、傷口をなんとかせねばならないため帰宅。江ノ島成分を摂取することなく帰宅するのが悔しかったため、深夜に海を眺めに海岸へ。海はいい、見ていると辛いことを忘れるから・・・

 関西に帰り梅田の皮膚科でアホみたいに並んで治療、こんなアホなことで一生消えないデカイ傷が手に残ってしまうのであるから人生はわからない。未だに右手の甲を見るたびにテンションが下がる。

 

6月某日

 祖母の訃報。

 GW時点にひっそり会いに行った時も、そこらへんの若者よりもよく喋るくらいの感じであった。ハードが朽ちるまでソフトがほぼ完璧に健在、という状態は、それはそれでかなりきついものであったのであろう。

 急に「仕事やめるか・・・」みたいな気持ちに襲われたが、それとこれとはあまりにも無関係、ただの論理の飛躍である。

 

6月某日

 TBSラジオ、アフター6ジャンクションに出演。「喋りは無理であるからせめて音楽はしっかりきめよう」と思っていたが、頼みの音楽セクションでずっこけてそれ以降は頭が真っ白、苦い全国電波デビューとなった。

 名実ともに”素人さん”をぶちかました自分、一方でラジオの現場というのは基本リアルタイムであるという性質もあり、常に一定の緊張感が保たれていて、そこでパーソナリティをやったりスタッフをしたりしている人たちは、まぎれもない”プロ”であるとしみじみ感じてしまった。プロの技術は一朝一夕では身につかないし、向き不向きもある。

 千里の道も一歩から、次回実力が問われるような機会がくるその日まで、日々精進である。

 

6月某日

 めまぐるしい生活の裏で、彼女が他の男とセックスしていた事実を知らされる。

おれは離婚でなにを学んだのか・・・今回もなんやかんやでそのうち元気になるのであろうが、こういうことを繰り返していくうちに、なんかの拍子にそのうち本当に落ちこんだまま元に戻らなくなったり、明るい部分を無くして暗ーい人間になってしまったりするのではないかと思ったりもする。とはいえ、なってもいないことを心配しても仕方がないのである。

 気を紛らわすためにコーナンで大量の木材を購入し黙々と家具作りに精を出す。ふと気づいたが、そもそも今住んでいる家の家具は、離婚した時に手にした金で買ったものばかりである。

 完成した大層な家具やらをみて、「これは気軽に引っ越せなくなりましたな・・・」などと考える。こうなったらここでもう少し仕事を続けつつ、もう1枚くらいアルバムが出せればいいなという気持ちになる。

 

 アルバムを出して二ヶ月、作っていた時になにを考えていたかもそれなりに忘れてしまっていて、聴くにはちょうどいい時期だなと思って最近よく通しで聴いている。

 もう少しもの哀しいイメージであったがそんなことはなく、いつも通りの自分であるなと思うだけである。

Potluck Lab. vol1 振り返り

POTLUCK Lab. vol.1
【日時/場所】
5/25(土)18:00〜23:00

5/26(土)12:00〜16:00

@京都cafe la siesta(http://cafelasiesta.com/)

アフター飲み会

5/26(土)17:00〜

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【参考にしたイベント】
・早稲田茶箱でやっている新作発表回(https://bit.ly/2VeJuxH)
至極シンプル、作った新曲を持ち寄って聴く
・INNIT
基本クラブイベントのフォーマットで進行する。bring your musicと題して、音源を持ち込む(CDメディア)と500円割引になる。会場に視聴コーナー(CDJ+ヘッドホン)が置かれ、いつでも持ち込み曲を聴くことができる。イベントの最後に、持ち込み曲を再生していき、運営メンバーがコメントしていく。イケてる曲を持ってきた人は次回以降ブッキングされることもある。

INNITのコンピ。懐かしい!(2014)

 

【構想】
 関西でトラックメーカーが交流できる間口のひらけた場を継続的に設ける。DTMのTips共有や音楽についての雑談などをすることを目的とする。
 基本的に
・ワークショップ
・DJ
・持ち込み音源視聴会
の3つがメイン。特に音源視聴会は一番重視する。

 INNITの運営メンバのような格好良さ、スタイリッシュさを自分は残念ながら持ち合わせておらず、どうやってもダサさが出てしまうので、開き直って間口を広げる方向を目指す。”ダサさ”は裏を返すととっつきやすさでもある(と信じたい)。

【当日までの経緯】
<2018年>
 有村が「DTM会やりたい」と言い出す。言うだけでなにもせず。太郎から「最初はシエスタがいいんちゃう?」と提案を受けるもなおなにもせず。

<2019年3月>
 見かねた太郎が日程を決め会場を確保。自分がもともと考えていた “Potluck”と、太郎の「ラボラトリー感出したい」というアイディアを安直に結びつけイベント名を Potluck Lab.に決定。「研究してないときの研究室での雑談」の感じがいいよね、という雰囲気を共有。

<4月>
 最初はチャージを取らずにやりたかったため、善意のみでやってくれると言ってくれた関西の友人を中心にブッキング。あっさりメンバーが決まる。内容はめいめいに自由に決めてもらった。

<5月>
 GW開けに、有村がフライヤーを作り告知。思いの外反響があり、会場のキャパシティが心配になりだす。

  DMなどでの問い合わせも多く、Googleフォームで参加登録を呼びかける。参加人数が80人を越え、イベント破綻の可能性が浮上したため開催一週間前に太郎とシエスタで緊急会議。マスター航太さんから「翌日昼なら店を開けられる」と言っていただき、勢いで2days開催を決める。

 お客さんの交流も目的であったが、パンパンの会場でそれは難しいと判断したため、交流の場として立食形式のアフターパーティも開催することに。シエスタ近所の飲食店に3時間の貸切依頼を完了

【準備】

 Googleフォームでの参加人数が80人を超えてしまったことと、関西圏以外からの参加者が2割程度いたため、せめてもの策として配信環境を整えることにした(もともとはiPhone直撮りで適当にするつもりであった)。

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配信の構成

 まともに配信することを決めたのが開催一週間前であったため、迷っている暇はなく機材は良さそうなやつを適当に買った。

YAMAHA ウェブキャスティングミキサー 6チャンネル AG06
 

 マイク2系統+ラインで複数系統入力できて、2mixを何も考えずに配信に載せられる 

macとwinで使えて、入力をパススルー出力できるやつを選んだ

ヨドバシで適当に買った 

 パススルーした出力を会場でモニタとプロジェクタに分配

反省は死ぬほどあるが、話者のカメラ映像+DTM作業画面と必要な音声をネットに載せるという最低限の目的は達成できた。謎に機材を揃えてしまったため、元を取るために続けないといけない気持ちに。

 【イベント当日】

<集客>
 2日合わせた来場者数は推定80人程度。カンパ額の平均は¥500/人程度。アフター飲み会の参加者は40人ほど。

<イベントレポ>

takawo.hatenablog.com

Takawo Shunsuke氏(@takawo)のレポが詳しいのでそちらで是非。ありがとうございます。

 

 【所感】

 まず何より無事にイベントが終了して良かった。マゴチの言う所の「モノ売るってレベルじゃねーぞ」状態になるリスクは十二分にあったため、そこは一安心であった。

 喋る内容に関してだが、”ググって出てこないこと”であることを重視した。ソフトの使い方や、基本的な制作のtipsなどは、正直SLEEP FREAKSなどの親切でわかりやすいサイトや外国人有志たちのtips動画(いわゆるHey guys!動画)など、先人の素晴らしいコンテンツをたくさん見る方が良い。

 めいめいのスタイルに至った経緯や考え方、精神性など、一見役に立たないバイブスの方が重要で、イベントではそちらよりで話していかないといけないという考えは、今回の出演者の共通認識であった。

 「サンクラにあげても再生数があんまり伸びないんです・・・」的な質問もかなりあり、レーベル運営や音楽の小売の仕組み、CD販売や配信などの手続きや戦略など、立ち回りに関して聞きたい人もいたであろうが、自分の独断で、今回はそういった話題は本編ではしないようにした。”音楽作るのおもろいよね”というところが一番大事だと思っているので、そちらを優先した。初回からそういった話題ばかりでビジネス的な印象を持たれるのも嫌であるし・・・

 一方で、太郎が曲を完成させる(したということにしてしまう)ことを「打席に立つ」と表現しており、イベント内でもしばしば「打席に立ちまくろう」みたいな話題になったが、音楽作りはじめの人あるあるの「曲をなかなか完成させられない」現象を乗り越えるためにも、「曲を完成させない限り打席には立てない」という気持ちは重要であるように感じる。曲をあげるのはインターネットでも良いし、友達に聴いてもらうだけでもよい。

 講師が生徒に教える、といった構図にならないようにも気をつけたい。音楽は良し悪しが定量化できないものなので、レベルが高い人とレベルが低い人がいて、上から下に指導する、というようなやりかたはしないようにしたい。「よくできた量産品より唯一無二のクソ」理論に基づいて、”唯一無二のクソ”の集まりを目指したい。

 今回もっとも重視した”Take potluck”という音源持ち寄り視聴会、やっぱり一番楽しかったので、それが一番の収穫であった。曲を送ってくるときに「マスタリングしていなくて申し訳ありませんが・・・」みたいな枕をつけてきた方が思ったより多かったが、今回でそんなことは些細なことで、たいして重要ではないということが伝わればよい。曲を聴いてもらうこと、聴いてもらって感想を言い合うことは楽しい。作り手の顔が見えるのもよい。知り合いゼロの状態で頑張って参加した人が、気の合いそうな人を一人でもみつけて帰ってくれれば(たとえその場で友達になれなくても)いいなと思う。

 全く未知数であったアフター飲み会も、どう進行すればいいか不明で心配していたがそれは全くの杞憂で、初対面の人たちが勝手に音楽の話を始めていて良かった。ここから一緒に曲を作ったり、イベントを始めたりなども勝手に起こってくれるような気がしている。現時点でも、参加者間でライブを見に言ったり、サンクラをフォローしあったり、曲の感想を言い合ったりしている様子がちらちらとインターネットで観測されて非常にありがたい・・・

<悩み>

  • 会場がむずい
  • 初回が故、どのくらいのレベルの話を期待されているかわからず、ワークショップの話し方がなるべく専門的にならないようにした。とはいえ入門的にしすぎるとある程度わかる方は退屈してしまう。気にせず喋って、わからないなりに雰囲気を味わってもらうという開き直りも必要かもしれない
  • 今回は持ち込み音源を(おそらく)すべてかけることができたが、今後数が増えるとそれは難しそう
  • DJのおもろさが30分枠だけだと伝わりづらい。「クラブにいけばわかるから勝手にクラブ言っておいで」というスタンスはある種の正解であるきもするが、持ち込み曲にDJツール的な側面の曲がほぼなかったのは寂しかったのでうまいことやりたい(特に自分はDJではないので)
  • 想像以上に女性の方が来てくれてありがたかった。とはいえ自分の周りは男比率が高めなので、男女比率が半々とは言わないまでも気にならないくらいにしていきたい

 

<悪かったところ>

  • ワークショップの間に休憩が必要。ぶっ通しは客も話者もきつい。ドリンクを注文しやすいタイミングもあまりなかったため、今後は長めのインターバルを挟みたい
  • マイク不足、もっと準備するべきであった
  • 1日目後半の配信音声がブツブツいってた、シエスタのインターネット回線をお借りしての配信であったが、お客さんもみんな利用可のものであったため、人が増えて同時接続数が増えたためと思われる。次回以降、クラブなどの会場でどうやって配信回線を確保するかは検討中。
  • 2日目頭に配信用windows10の更新が始まり2時間終わらず。パソコン一年生レベルのミスで2日目の前半配信できず。
  • 配信音声のマイクとラインの音声バランスに不満を示すコメント(声が小さいなど)有り。配信音声をつきっきりで面倒見る人がいなかったためやむを得ないが次回以降はちゃんとしたい

来てくれた人や配信見てくれた人は改めてありがとうございました。次回は8月予定です! おれもいっぱい曲作ります。

(参加者にはアーカイブ送りますがちょっとまってね)

 

有村スライド

 

 

無題

 本日4/24に、私の新しいアルバムが出ます。ライブ、現場はそれはそれで楽しいけれども、やはり録音物は別物で、共感や、大人数での一体感など抜きにして、1人でゆっくり聴いていただけると非常に嬉しいです。自分が作ったアルバムを、別の誰かが1人で聴いて、何かを感じてくれるようなことがあれば、それが一番幸せに思います。自分は頭お花畑なので、自分の曲を好きで聴いていてくれる人とは、それだけでそれなりに気が合うと感じてしまいます。知らんけど。

 楽器を弾いてくれたisagen、武田くん、Uさん、流通のせるまで面倒見てくれたミツメの川辺くん、いっつもデザインやってくれてる猛、マスタリング担当していただいた得能さん、人生相談やTTHWでのプロモーションでお世話になったトーフさん・・・あげるとキリがないけど、マジで皆さんありがとうという気持ちでいっぱいです。ほぼ一人で作った音楽作品なのに他人への感謝が止まらない・・・月並みですが。

 

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3月某日

 マスタリングをお願いしていた得能さんには2mixだけでなくステムも送っていて、こんな感じでどうかといった提案までしていただいた。それに対して自分は一貫して「もう少しリバーブをあげてください…」と言い続けていただけであり、それがサウンド面でのアルバム最後の作業であった。ライブセットはともかく、普通の音源でのリバーブへの執着が人より強い自覚はこれまで特にあったわけではなく、客観的な視点が入ると自分の平均からのズレを認識できてよい。tofubeats氏曰く「気合いとはズレ」。

 そうしてアルバムの曲が晴れて完成したわけであるが、やりきったという感覚は特になく、自分の引いた線で区切っただけという認識である。多分自分はこれからもそんな感じなのであろう。

 完パケ記念にパーっと行くぞ!とバーミヤンに行き1人飯を食らう。パーっといくはずが、いざ会計してみると、普段よく行く王将よりも安くついてしまった。

 

3月某日

 スーパー高校生ヤックルのアルバムリリースパーティでジュール。なかなかジュールにブッキングされることなんてない上に、お客さんも出演者も10代の人たちがたくさんいて、楽屋に行くとアイドルが代わる代わるスタンバイしている…といういつもとは違うシチュエーション。

 テレビ出演を果たしたばかり、この前まで中学生だった三阪咲さん、RO JACK入賞した高校生の音楽かいとくんと喋る。SNSの話や、音楽かいと名義の名前の由来など…今後、自分の比にはならないくらいに活躍するであろう彼らは、自分とは明らかに異世代なので新鮮である。10コ下!手放しにみんなすごい。自分がそれくらいの年齢の頃を思い返してみると、神戸元町サイゼリアで騒ぎ、西宮北口ブックオフで買ったCDを家でブヒブヒ聴いていただけである。

 後半なぜがクラブの出音が異常に小さくなってしまい、いかんせん煮え切らぬまま自分の出番が終わりそうになっていると、次のアクトであるDEDE MOUSE氏が、お客さんを煽ってステージの上に乗せてしまった。その局所的な人口密度とみなれぬシチュエーションのままライブを開始。音量が元通りになり、ハコの人にステージから降りるよう促されるまでの十数分、会場は見事にピースフルな雰囲気に包まれていた。憧れて音楽を聴いていた先輩に、別の角度から地力を見せつけられると、自分の至らなさを痛感すると共に、さすがだな…という気持ちになる。

 そんな先輩後輩との場を与えてくれたヤックルが、トリのアクトでヨーヨーをプレイしているのを眺めながら、彼のこれからの活躍を願う。いいやつなのできっと前途洋々であろう。

 「ということはさ、高校の進路希望の紙に"アソビシステム"って書いたの?」という自分のくだらない質問に対しても、彼は「そうなんですよ〜」と涼しい顔で返事をしてくれたし。

 

3月某日

 Yahoo!ジオシティーズがサービス終了してしまったため、synth1を配布しているサイトにアクセスできなくなった、とのニュースをみる。泰明がTwitterで「synth1で減算シンセの使い方を覚えた」というようなことを言っていたが、自分もまたそのような人間の1人であり、さらに言うと世の中にはそんなやつがいっぱいいるのであろう。

 フリーで良質なソフトシンセを公開する、それに対して懇切丁寧なチュートリアルが公開され、そして、パソコンはあるが金はないようなキッズがシンセサイザーのイロハを学ぶ。そして音楽という人生における表現ツールを獲得する人間が出てくる。インターネットは"てこ"のようなものであるなとしみじみと感じてしまう。インターネットの"てこ性"をどう使うかは、使い手次第である。

 synth1がシェアウェアとして金を取り出したとしても、価値と価格の釣り合いを鑑みても文句を言う人はいないだろう。とはいえ、無料で配ったからこそ起こったこともまたたくさんある。

 「金を取らないクリエイターがいるせいで市場価格が下がる」みたいな話題は定期的に上がるが、無料(安価)でクリエイティブをばら撒くことでしか起きないことは確実にあるし、それは必ずしも全体の不利益を起こすわけではないと自分は考える。事情や目的はめいめい異なるわけであるから、金を取るも取らないも自由に決める裁量を持てること、そしてそれによってそれぞれのニーズがうまく満たされるような状態が一番健康的であると感じてしまう。

 

 事あるごとに「誰かの善意が他の誰かの人生をドライブしていく」みたいな話ばかりしていると、そんなのはきれいごとで、頭お花畑の性善説であると思われることもある。

 自分は偶然その善意を享受できただけで、その成功者バイアスで物事を語られることを不快に思う人もいるかもしれない。それに関しては、深々と頭を下げるしかないと思う一方で、それでも「後生や…この考え方でやらせてくださいな…」というスタンスである。

 偶然にも、善意を信じられるくらいに人によくしてもらった人生、善意で回させていただけませんか、そう願わずにはいられない。

 

3月某日

  TTHWの収録のため京都へ。案の定、知らない機材で簡単にイケてる曲が作れるなんていうのは驕りでしかなく、ゴミみたいな曲を作ってしまったが、自分の実力なんていうのは間違いなくそんなもんである。

 制作を終えて大浴場へ行き、いつまで喋んねんというくらい話し続けては深夜未明に就寝。朝風呂ののちコメダ珈琲に行っては、またいつまで喋んねん状態に。流石に若干の疲れを感じたまま、むき出しのおしゃべりキーボードを小脇に抱え一旦帰宅。しばし仮眠したのちに京都メトロへ。

 満を辞して再生される TTHW制作曲。自分の最後の曲のアウトロに重ねる形でふめつのこころのアカペラをリアルタイムでマッシュアップするトーフビーツ氏。なぜこうも先輩たちはごまかしのきかない場面でリアルな実力を見せてくるのか…自分も昔に比べるとマシにはなっているはずだが、地力を見せつけるどころか、正直至らなさが出てしまう場面の方が多い。精進しないといけない。

 楽屋でTEI TOWA氏が皆に興味深い話をしている横で、恐縮しきりで子犬のような顔をしているうちに、あっという間に朝になってしまった。

 

4月某日

 会社の花見があり、なけなしの社会性を持って参加する。会社に山ほどいる同世代を遠巻きに眺めながら、「みんな普段なにしてるんやろ…」などと考える。これまでそんなことを思ったこともなかった自分であるが、ここまで周りに興味を示さず来てしまった自分はすごい嫌なヤツなのではないかと急に考えてしまった。会場の桜は開花の遅い八重桜であり、その日はほとんど咲いていないままであった。

 

4月某日

 サラリーマンの自由時間である土日はひと月に10日あまりしかなく、自分のキャパを鑑みて、イベント出演以外の日を計画的に制作仕事に割り振るわけである。

 この日はonepixcelのシングルに収録されるリミックスを作るために確保されており、PC作業とウーバーイーツのみの休日を過ごすつもりであったが、地方統一選挙ということで外出をすることに。お日柄も極めて良好で、「選挙の日って、ウチじゃなぜか…」のテンションでゆっくり外食でもしたかったが、一瞬で投票を済ませ、結局15分ほどで帰宅してしまった。

 近頃はアルバム制作などをずっとしていたこともあり、ここ最近家の窓やカーテンをほとんど開けていないことに気付く。カーテンも窓も全開にし、「なんで心地よい日なんだ…」と空を仰ぐ。結局その日はなにもする気が起きず、ストレスフリーと時間をお金で買うんや…とウーバーイーツでカツ丼を呼びつけてはかっ喰らい、結局そのまま寝てしまった。

 休日の怠慢は平日へ、結局仕事終わりの深夜に曲を作るハメになる。計画通り物事を進められるような人間であったら、そもそもこんな人生になっていない。

 

 

4月某日

 京都メトロにてALPS。3ヶ月連続のメトロであるが、特に飽きる気配もない。

 クラブイベントというものは、人は集まったものの、みなのシャイさの牽制しあいにより、大盛り上がりせぬまま終わることがままある。それはそれで乙であるが、東京の音楽好きな酒飲み集団が主催のALPSというイベント、そこそこの人数いる主催自らが、掛かる音楽に大喜びし、酒を飲み、踊り狂うのである。その画期的なシステムにより、おのずと勝手に場が温まるという演者フレンドリーな布陣であり、この日も例外ではなくそんな感じであった。

 12時オープンという狂ったタイムテーブルとともに、出演者たちのナイスアクトが繰り出されていく。あまりにも他のみんなが良いので、夕方以降、トリの自分は途中から柄にもなく緊張しはじめていたのであった。

 「楽しみにしていますね〜」と声をかけてくれるお客さんに「絶対後悔させますよ」などと意味不明な妄言を吐き、物販を買いに来た人に無料で商品をあげてしまうなど精彩を欠く行動を繰り返しているうちに自分の番がやってくる。「さーてやりますか…」などと気合をいれ一丁前にステージに上がる一方で、自分のすることなんて再生ボタンを押すことくらいである。

 気づけば良い感じの雰囲気でイベントを締めることに成功したが、それはみなさんがいいヤツだったおかげであろう。知らんけど。

 

 TTHWの1話でseiho会の話をしているが、当時INNITやidle momentといったイベントに遊びにいくようになった時期、「すごい音楽を作っている人に作りかたを教わりたい」みたいなマインドでいた自分に対して、そこにいる人たちはみな一貫してフラットに"音楽を作っている友達"として接してきたことは自分にとって大きな転機であったように思う。

 「ステージに上がるためには必要なレベルみたいなものがあり、それを自分は満たしていない」みたいなことを考えていた自分に対して、「ソフマップ行って安いラップトップ買ってきてライブしなよ」と言ったのはand vice versaの久保さんである。それを受けて5万握りしめて買ったthinkpadを使って、初めて人前で自分の曲を再生したのはちょうど5年ほど前である。

 

 そんな感じで「早稲田茶箱の新作発表会みたいなやつを関西でやりたいんですよね…」と言い続けるも実行できないまま早一年、ストーンズ太郎が手伝ってくれたおかげで有村プレゼンツのDTM会第一回が5/25に京都シエスタで開催できそうです。チャージフリーにできればと思うので、音楽作ってる人は持ってきてください。詳細は追って告知します。善意で回すぞ!オラッ!!!

 

 

 

in the blue shirt 2ndアルバム"Recollect the Feeling"全曲解説

 作る行為そのものが娯楽なので、終わらせてしまうのが嫌になって完成を拒んでしまうようなきらいもありましたが、2ndアルバムがようやく完成いたしました。完成というか、まあセルフ強制終了みたいなもんですが。とはいえ、それ以上よくする実力もないくせに、「いや、これはまだ"Work In Progress"なので…」みたいな態度はよくない。

 いつリリースされるのか、それはさておき、作り手としては完成した時点の鮮度十分な状態で、忘備録として制作メモを書きました。発売日はいつなんだ…教えてくれdjnewtown…

 

【背景】

 前作はどうしても「自分がいままで作ってきた曲の中から佳作を抜粋してきました」みたいな感じの作り方だったので、次はちゃんと"アルバムのために曲を作る"前提で制作しようと決意。

 アイディアスケッチを10ネタ準備し、全体の雰囲気を勘案しアルバムタイトルを「Recollect the Feeling(仮)」に設定。テーマを決め、それに従ってそれぞれのネタを膨らませてアルバムの完成を目指した。ボツ曲は一曲のみのお釣りなしファイヤーフォーメーション。

 

【全体テーマ】

 いままでの人生で、音楽を聴いた時(別に小説や漫画、映画などでも構わない)に受けた強い感動、深い感銘をぼんやりと思い出す。具体的な思い出ではない、センスオブワンダー的な感情に向き合ううちに、漠然としているはずの「自分の好きな感じ」がなんとなく見えてくるような気がする。

 

1.Lost in thought

真っ向から初期bibioへの敬意表明。

 「"8mmカメラで撮った映像"は調子いいが"8mmカメラ風加工"はどうしてもダサい」的な問題は、この手のローファイトラックを作る際にどうしても立ちはだかってくる。ヤフオクでカセットMTRを落札してみたり本気でSP1200の購入を検討したりもしたが、ローファイな機材が好きなわけではなく、そのサウンドが好きなだけなので、なんで"そういった機材を使った音が好きなのか"を本気で考えるためにも、あえてアナログ機器に頼らず完全にプラグインオンリーでのサウンドメイクに挑戦。「その手の機材を利用した」という手続きや過程を重視するのではなく、自分の一番好きな機材(パソコン)で好きな音を目指す。"8mmカメラ風加工"的なテクスチャになっていないことを願う。

 何かに耽けるような心情を一曲目で出したかったので、平坦な進行ののちに、内向き、内省の心情が出るようにボーカルをカット。質感も含め自分のバイブスを込めれていると信じたい。

 

2.Gray herons

 元を正すとかなり古い曲。原型となる曲は4年前くらいにサンクラにあげた記憶が。事情があって去年リメイクしたが、結局世にでることはなかった。質感が本アルバムのコンセプトにあっているような気がして繋ぎの二番打者として採用。

 ギターのチューニングはDBDGBD(オープンG)で弾いていますが、これもBibioの曲をコピーしていたのがきっかけ。

 タイトルはアオサギのことである。なんてことはなく青いからアオサギなのだが、日本以外の国では青には見えないようで、他の言語ではだいたい灰色のサギという扱いをされているよう。ソシュール言語学的なトピックスではあるが、他国での灰色がこちらでは青と解釈される、みたいな現象は、欧州の音楽を参照点にしながら日本で制作をする自分に意義を与えてくれるような話であるように感じてしまう。

 音楽でも歌詞でも、はたまた他の創作物でも良いが、自分は風景描写と叙情が重なるようなものが好きである。bibioの執拗なまでの自然、風景やそれにまつわるモチーフへの愛慕は、身を置いている環境からインスパイヤードされたものであろうが、そういうものにろくに触れずに育った人間でもいい曲がつくれる可能性があると信じたいものである。

 

3.Between us

 自分的には本アルバムでもっとも技術オナニー性の高いトラック。自分のボーカルエディットのスキルをひけらかしたいという浅ましい感情で作り始めた曲であるが、結果として結構おもしろくなったと思っています。「奇妙なノリの2人の掛け合い」がテーマ。奇妙なまま終わる予定のはずが、個人的な願望が反映されてしまったのか、にこやかな感じに着地する展開に。お互いの親睦のために、ちょっと今夜はいろいろ話そうや、的な。まあ結局人の気持ちは分からんけど。

 ちょうどノリでIK MultimediaのシンセSyntronikを購入したタイミングだったのでフル活用。音色読み込みは結構遅いがお気に入り。やっぱ自分はサンプリング音源の方が相性がいいような気がするが、そもそも普通のシンセでのシンセサイズが下手なだけなのかもしれない。

 

4.Casual remark

 元ネタはThe Fabulous Waller Family - How Long Will I Be A Fool。いい曲。

こんな曲のクリアランスがそこそこの値段で取れてしまうなんていい時代・・・

 基本サンプル、ドラム、ベースの3トラックのみで組む行為を個人的に三点セットシリーズと呼んでいる。(前作だとWay ahead、send aroundなど。)PCに優しい省エネトラックメイクであるが、使う脳みそは何十トラックも使う多楽器アレンジとそんなに変わらない気も。2017年以降結構クライアントワークをやったが、そちらではこのスタイルはなかなか取れる機会はないので自分の作品でしっかりやっていきたい。

 cluster AのPV周りのトラブル?でサンプリング哲学にしっかり向き合わざるを得なくなったわけであるが(未だにYouTubeのコメント欄で非難され続けているので興味ある人は見てみてください)、このアルバムがそういったものへのはっきりとした態度表明になるとよいと思う。拝借するのはフレーズなのかテクスチャなのか、はたまたその向こうのバイブスなのか。おれたちが参照しているものはなにで、どこからが自分のクリエイティブなのか。

  後半の展開かなり悩んだが、なんだかんだ(当社比で)パンチのある曲に。

 

 

5.Good feeling

 原型ができたのは2012年、DAWを購入しin the blue shirt名義をはじめて三曲目に作った曲。しばらくサンクラに別のタイトルでアップしていたはず。当時はボーカルチョップのボの字もなかったのでだいぶ雰囲気が変わってしまったが。

 7年も経つとDTMの技術は上達しているが、ソングライティングというか、根本的なバイブスは何も変わってないんだなという気づきは、"Recollect the Feeling"というアルバムタイトルをつけようと思ったきっかけでもある。「根本のバイブスってなに?」という問いに対峙するには、自分がマジで感動した創作物から得た感情に向き合うとよさそうだと思いませんか?知らんけど。

 左右で鳴っているピコピコリードは当時のデータそのまま。昔の自分に感謝。ボーカルのラインも結構お気に入り。ありがとう今の俺。

 もともとギターのみで作った曲であったが、それをリハモして鍵盤中心のアレンジにしたのが果たして正解だったのかは不明。

 

6.Bamboo leaf

 かつて上野公園のイベント告知動画用に制作したトラックが原型。ほぼそのままボーカル足しただけ。アルバムの前半と後半の間の箸休め。

 上野といえばパンダ、パンダといえば笹。そういえばおれは未だにシャンシャンを見に行けていない。そしてまさかアルバム購入特典がパンダグッズになるとは思わなかった。

 

7.Cast off

 個人的に絶望真っ只中でガンスピりしている最中に作った曲。怨念満載、この曲聴きかえす度にそのときの気持ちを思い出せるように・・・

 人生第二部、やっていこうという願いを込めてのタイトル。この曲なくしてこのアルバム成立せず。

 最近はボーカルエディットの作業がろ過のように思えてきて、意味のある言語で歌われた歌唱をふるいにかけて、意味のみを取り除き、バイブスとフロウ、メロディだけを濾し取っているようなイメージを持ち始めています。

 たまにろ過をしきらずあらごしにする事で、意図的に意味を残すのもまた乙で、この曲ではろ過しそびれた「follow me」「only you」というフレーズが執拗に繰り返されるわけです。クロマトグラフィーのマスでのピーク分離みたいなもん。我ながらキモい行為だと思うがやめられず。

 

8.Fork in the road

 「アルバムを作る上で自分のためのご褒美要素が欲しいな…」ということでバンドでの生録前提で作曲。ギターは心の師匠igrek-u氏、ドラムスは現バレーボウイズの武田くんに頼むつもりであったので、自ずとベースはイサゲンに決まる。

 自分の身の回りの人間の中でも武田くんは抜群に優れたドラマーだと思っていて、前々から彼に6/8の曲を叩かせたいと思っていたのと、(個人的な好みなだけかもしれないが)igrek-u氏のギターが映えそうなアレンジしたいということ、そして中高時代に聴いていたような邦楽のギターロックへのリスペクトを込めようという3点を元にデモを作成。基本そのまま弾いてもらいつつ、各パート自由にしてもらって良いですという方式で制作。

 u氏には曲中に2回あるギターソロを丸投げ。前半ソロのフレージングは見事の一言。エンディングも、アンプマイク録りの際にエアー直録のマイクを立てて頂き、ハウりっぱなしのチャンネルを作成していただいたお陰で前のめりのバイブスが醸されています。改めて感謝。ギソロ以外は私のアレンジ準拠で弾いてもらってます。高校生のおれに伝えたい、「10年後お前が作ったフレーズをUさんが弾くぞ!」

 武田くんはドラムセットの世話をライフワークとしているからなのか、生ドラムセットのサウンドメイク能力が謎に高く、その面でもだいぶ助けてもらいました。叩ける奴はたくさんいるが、彼ほど生ドラの音作りを意思もってちゃんとやれる年下を自分は知りません。フレーズを丸投げしただけでなく音色の選択もほぼお任せ。

 録音時のスネア選びも60sのGretschの4157が良いのでは、と提案してくれたのも彼。のちにデモに近い音色の70sのludwigの402を試すも結局前者に決定。

 チューニングやミュートでの調整や録りのプリアンプ替えて音がどう変わるのかなど、自分が全くわからない部分をプレイヤー武田くんとエンジニアの谷川氏には多分に面倒を見ていただきました。最終的に選ぶのは自分、非常に恐縮ですが、ノリとフィーリングでいかせていただいた次第。

 ミックスは自分で基本やって、得能氏に社会性を注入していただくスタイル。生ドラムのミックスはおもしろい!マイクのアンビでの生エアーと、pro-rのショートリバーブでの整然としたルーム感。興味は尽きないですね。

 

 

 

9.On a Saturday

 これも古く、元を正すと18の時の宅録ファイルが元ネタ。前作Mellow outと同様、おれの奥底に眠るインディ、ギターポップマナーに乗っ取って作曲。

 とは言ってもアレンジ詰める過程でロック臭がぼちぼち脱臭された気がするが、それは最近の自分のモードなのかもしれない。この曲のテンション感はおれの音楽に求めるテンション感ほぼそのまま。

 

10.Rivebed

 テーマは淀川。デモ作って一年ほど放置しているうちに、tofubeats氏がRiverという大名曲を生み出してしまいお蔵にしようか悩んだが結局採用。

インスタグラムでフォローしているダンサーの方が、河川敷などで何気なく踊っている動画を見るのがすごい好きで、それに強いインスピレーションを受けています。

 なぜか昨年トレンドかのような扱いを受けたローファイヒップホップのシーンにおける作法を、自分は基本的に"拝借"であると解釈していて、それはそれで好きだが、一方で今回したかったのはあくまで"再構築"である。

 ローファイヒップホップシーンでは、アングラで居続けるのか、売れたが為にグレーな領域から足を洗うのかみたいな選択をめいめいがしはじめるような時期になっているようなきらいがあるが、これは常々言っている"サンプリングで徳を積む"フェーズを経たもの特有のライフステージである。"拝借"で作られたサンプリングトラックに手弾きでの接近を試みるみたいな循環もおもしろいが、今回の自分のアルバムも、"サンプリングで徳を積む"行為の経ての作品であると考えていて、彼らはみな同士のような気分。

 エモい気分はあくまで一時的なもので、センチメンタルもそこそこにシラフに戻ってこその日常やね、みたいな感じでアルバムが締められればと思って作りました。

 

 最後にサンプリングという行為に関して。

 自分の引き出しにない要素を手に入れる一番手っ取り早い方法は、既存の、他人の業績を拝借することである。そしてその拝借は、油断をすると見事に品のない行為になってしまう。

 自分はきな臭い制作スタイルを取っているが故に、日々引用の倫理とがっぷり四つなわけだが、現状そういった中で、心に打ち立てたスローガンが"巨人の肩の上に立つ"ことである。Google Scholarを開くたびに「なんと素晴らしい言葉なんだ・・・」と打ちひしがれる日々・・・

 先人の偉業の肩に乗り、遠くの景色を見ようとする上で、常に忘れてはいけないことは、「それによって自分が大きくなったわけではない」という自覚を持つことと、「正しい手続きを経て巨人に乗せていただく」よう努めることである。

 そんな態度を、気持ちをどうにかして示せたらな、という思いで今作は制作しました。今回はリファレンスに可能な限り自覚的になること、リーガルな方法でサンプリングを行うことを一度徹底してみました。引用、参照という行為に少しずつ誠意を持って向き合えるようになるための礎になればという気持ち。健やかに遠くの景色を望めるといいですね。

 せめて自分が常々している"サンプリングで徳を積む"という発言が、違法行為の肯定みたいに捉えられることだけは避けたいな思います。知らんけど。

 

  そして2dnアルバムの完成、それはすなわち3rdアルバムの制作開始を意味するのである・・・

無題

1月某日

 チーム91年生まれのかずお、ヒデキックと上野へ。以前ヒデキック経由で「数奇フェス」のトレーラームービーの音楽を作らせていただいた縁もあり、今回もまた上野に関する動画を作ることになったからである。

 Twitterなどで、その町にいそうな人間をカテゴライズするようなイラスト(渋谷男子、中目黒男子…みたいなやつ)をたまに見かけるが、確かに上野という町は分かりやすく記号化し、レッテルを貼るのは難しい。確かに、大学、文化施設、動物園などの施設に加え、アメ横的なカルチャーまで、全て徒歩圏内にある上野という土地はなるほどなかなか稀有なようである。言われるまではそんな風に考えることはなかなかない。例えば、自分はパンダがマジで好きだが、人は往々にしてそういったわかりやすいモチーフにかまけて考えが雑になってしまいがちである。意識しないと人はすぐ楽な道へ行ってしまう。

 Skypeをすると往々にして6時間くらい話し続けてしまう我々であるが、オンラインだろうがオフラインだろうがやはりよく喋る。よく喋るが、シンプルに明るい人間であるかと聞かれると、3人揃ってそうではない。

 天気がとても良かったため、謎に3人でスワンボートに乗る。おれとかずおが漕ぎ、ヒデキックがハンドルを握る。これはメタファーか?と心の中で笑う。メタファーそのまま今年も3人で何か作りたい気持ち。

 最終的に駅前の王将に吸い込まれ3人で飯を食う。「かずおは普段酒飲むの?」と聞いたら「僕は特別なときにしか飲みませんよ」みたいなことを言っていていた。たかが王将で…と笑いそうになったが、よくよく考えてみると、もう何年も連絡を取り合っているのに、3人だけで会うのはこれが初めてであった。毎日がスペシャル。知らんけど。

 

1月某日

 ミツメの川辺くんの紹介の元、今回のアルバムの流通をしてもらうbridgeの事務所へ。

 流通に関しての相談は身近な人数名にしていたが、そのうちの一人が川辺くんだったのも、ミツメのバンドのあり方が、自分の目指すような音楽との付き合い方に近いと感じるからである。昔から自分を知ってくれている人間が、なんだかんだ面倒を見ていただけるのはありがたい。

 bridgeのみなさんも親身に話を聞いてくれて、なんとなく5月くらいでいいや…と思っていたリリース日も、当初の予定であった"平成中"に上方修正されてしまった。

 ダラダラとやっていたアルバム制作に締め切りが設定されたので、もうやるしかないという状態に。まさに(アートワーク担当の猛が言っているだけの)クリエイティブ3カ条のうちの1つ、「終わりを決めるのは時間だけ」である。

  川辺くんにプレス用のコメントをくださいよ、と頼んだところ、「おれをメインに据えるのはやめてくれ、四人目ならいいよ」とのことだったので、第四のコメンターとして活躍していただくことにします。

 

1月某日

 翌日、表参道などというハイソな空間で姉の結婚式があるので、川辺くんと別れたのちに渋谷へ。夜イイモリマサヨシのリリパがやっていたのでふらっとvisionに顔を出す。いつものように見知った面子が遊んでいて、なんとなく世間話などをする。人を誘うのが得意ではない自分にとっては、場が先にあって、そこにいくとどうにかなるのはよい。一方で、場に頼らずに、「おれはお前と話がしたい」と臆せずに人を誘っていきたいという気持ちもあるが。

 そこそこにクラブを抜け出し、適度に酔った状態で渋谷から表参道まで歩く。クラブを歌った名曲は、往々にしてその夜自体ではなく明けた朝を描写しがちであるが、途中離脱の夜だってそれもまた乙である。今日も歩いて帰れるだけの酒を飲み…

 

1月某日

 姉の結婚式に出席する。新郎が選曲したであろうウルフルズモンゴル800などの名曲の合間に、姉が選曲したであろう自分の曲が流れ続ける異常な空間に頭がクラクラしてしまう。

 こんなヘリウムガス吸ったみたいな声の曲が延々流れている式場は地獄だな・・・などと考えている自分とは裏腹に、「こういうのを作られているんですね」と興味を持って話しかけてくれる人もいたりする。その度に、もう何度したかわからないような反省を繰り返す。

 どうせ話してもわかってもらえないだろうし、という気持ちが先行し、日常で音楽の話を人にすることはほぼない。自分から言わないのはいいとして、人から聞かれたときにすら、適当にごまかしてしまう癖はなかなか抜けない。

「どうせわかってもらえない」という決めつけは、割と最悪な考え方である気もする。聞かれたらちゃんと説明する。興味を持ってもらえたら嬉しいし、興味を持たれなかったとしてなにかこちらが損することは全くない。人の性質を決めつけるようなことは驕りである。

 

2月某日

 トーフビーツに呼び出され西宮へ。ふと「彼と会うときはだいたい西宮北口な気がするな…」と思ったが、それはイメージだけでそういった事実はない。

 権利問題がついて回るハードオフビーツに代わる新企画TTHW、ほんわかとしたノリとは裏腹に彼のやることはだいたいシビアに実力が問われるものばかりである。とはいえ、実力なんていうのは、すっかりそのまま白昼のもとに晒されてしまうくらいがちょうどいい。

 インターネットには"なんかすごそう"な人たちがたくさんいる。その人たちが本当にすごいかどうかは往々にしてわからない。わからないこと自体は問題ではなく、わからないことをいいことに、すごいフリをしてしまうことがよくない。虚栄心みたいなのは程度問題で、誰しもにある。それに溺れないためのの手っ取り早い方法の一つは、ちゃんと土俵に上がり、評価に晒されることであろう。音楽作品を発表すると、それ以上でも以下でもなく、まるだしの実力が明るみに出るから良い。

  とは言っても、人前で失敗したくない気持ちももちろんあり、まもなくやってくる自分の番のTTHWの収録では、サイコロで6が出て、機材がたくさん買えて、まぐれで神曲ができて欲しいと願う。人は愚かである…

 

2月某日

 アルバム中に一曲だけ存在するバンド編成生録曲のアレンジを詰めるため、イサゲン、武田とigrek-u邸へ。行きのタクシーの車内での話題は主にナンバーガールの再結成についてであった。

  怠惰の心を胸に抱いた我々は楽曲のアレンジ作業を早々に切り上げ、ハンモックで寝たり、セッションをしたり、思い出を振り返っている内に夜になってしまう。「有村くんが思いのほか適当だった」とはu氏の談であるが、自分的にはこれでもう大丈夫、という謎の自信があったのだから不思議である。

  

 最終的に居酒屋でu氏とイサゲンの馴れ初めの話になる。「会ったことない中学生に宅録のやり方教えるなんてヌクモリティですね」みたいなことを言った記憶があるが、ヌクモリティという言葉はもはや死語の向こう側…

 碌に学校に行かず、自室でアニメと音楽に耽っていた中2のイサゲンにインターネット越しに「楽器の録音」という音楽との付き合い方を与えたのはu氏周辺の面々である。そして高校に進学し、出会った武田くんと彼らの音楽をきっかけに意気投合。大学進学で京都に来てみたらu氏の曲のコピーを自宅で延々としていた自分と邂逅したわけである。そんな三人は今も音楽に携わっていて、巡り巡ってu邸で曲を作っているのであるから人生はわからない。

 

 「何処の馬の骨かもわからぬ中学生に宅録を教える」ことを起点に、連鎖して湧いてくるナイス出来事、ヌクモリティに損得感情を持ち込むのは野暮だが、基本的に善意はお得である(と信じたい)。やはりパイの大きさそのままに取り合いをしても意味はなく、パイをデカくしないといけない。目先の損得を一旦棚に上げ、種を蒔き、畑を耕す。人生をよくするにはこれである。畑なくして収穫なし。

 エモい話をし続け、最終的に「イサゲンは出会いに恵まれたんやね」みたいなことをu氏が言ったくらいのタイミングで、感極まったイサゲンは泣き出してしまった。その後も出てくるいい話は山の如し、その度にイサゲンは泣いていた。横の武田に言わせてみれば「エモい話をするのはまだ早い、10年先…」とのことであるが…。

 

 u氏が「自分で聴きたい音楽を自分で作る」という気持ちでmp3とtab譜を自前のサーバーにアップロードしはじめたのはもう10年前のことであるが、それは自分たちの人生を大きくドライヴさせてしまった。一丁前な顔をしてみな音楽をしているが、そんな人生はきっかけ一つでさっぱりなかったかもしれない。そんなきっかけを人に与えられるような音楽を自分は作れるのだろうか。

 基本方針は「自分のために音楽を作る」ことである。そして、あわよくばの副産物として、知らない間に、だれかの人生に影響を与える可能性もあるかもしれない。夢が広がりング性、忘れたくないですねえ…

 

 酒により気が大きくなり、帰りの電車で「この気持ちだけでずっとやっていけるかもしれないな」などと考えてしまったが、別に気持ちで曲ができるわけではなく、家に着くなり、またパソコンを開くのがおたくの性分である。

 デモのドラムを打ち込み直しながら、「アルバムのこの曲を聴くたびに今日のことを思い出すんやろあなあ…」と感傷的になり、眠れなくなってしまった。

 

2月某日

 気持ちだけではなし得ないことはたくさんあり、前日のエモとは裏腹に、何一つ本チャンの録音をしたわけではないという現実。翌日には録音作業。武田くんのコネクションにより、谷川 充博氏などというビッグネームのスタジオでのドラム録りを実施することに。

 いっちょ勉強させてもらいますわ…という社会科見学的なテンション、何処の馬の骨かもわからぬ自分の曲の録りに従事して頂く畏れ多さ、そしておれは録れた素材をちゃんと捌くことができるのかという不安が入り混じりふわふわした気持ちで現場へ。

 

  武田くんと谷川さんのナイスな関係性のおかげで作業自体は円滑にすすみ、2時間程度で一通り録り終わってしまった。谷川さんは人当たりが実によく、そして話が面白い。録音はレコーディングエンジニアと奏者の共同作業であるから、エンジニアの人柄は多分に作品に影響するよな・・・。作業もそこそこに延々と話し込み、気づけば外はすっかり夜であった。

 

 「マイクを立てて録音をする」という作業は、いまの自分の制作スタイルだと完全にする用事がないため、一ミリもノウハウが積まれぬまま抜け落ちてしまっている。一方で、当然ながら、そこには深遠なるクリエイティビティの世界が広がっているわけである。

 一生かかっても理解しきれないような興味深い領域が、自分の興味対象のすぐ側に、手つかずのまま転がっている。「人生暇なし、退屈とは無縁やね…」と思う一方で、暇ができるたびに、スマホでくだらない情報にアクセスし続けている自分もいる。強い心で己に克つ日が来ることはあるのだろうか。

 

2月某日

 メトロでのイサゲンの企画Large size。たまたま続いただけであるが、「今月はイサゲンの月やね…」という気分に。意外にも京都メトロが初のトレッキートラックスと、関西の見知った面子。また同じメンバーでやってもこうはならないだろうなというようなナイスパーティ。

 柄にもなく酒を飲み過ぎてしまって、最後のメトメさんがエレピを弾き始めた頃に夢の中へ。目がさめるとパーティの終わりであった。

 

 深夜、太郎とマゴチがやっているNC4Kというハウスコレクティブのイベントがやっていたのでシエスタに顔を出す。ゲストとして香川から呼ばれていた小鉄くんとも久々に喋る。ぶらぶら街を歩きながら香川での近況などを聞いたりする。色々な生活があり、めいめいの制作への向き合い方がある。自分のペースで、良いものを作っている身の回りの人をみていると、自ずとやる気が出る。

  "畑を耕す"ような行為がなかなかできていないことに割と負い目を感じ続けてきたが、一方で、身の回りの状況は良くなっていってる気もする。もっと良くなるように、自分にできることはなんなのであろうか。

 

 

無題

 ブログの記事数が100を超えていて驚く。いまの形式で書くのはだいぶしっくりきているが、逆にいうと100記事も書いて、ようやくしっくりくるスタイルにたどり着くのであるから、何事も継続である。とはいってもこれも音楽同様、誰に頼まれたわけでもなし、続ける道理はなく、飽きたらやめたらいい類のものである。

 

 方向性が定まらず、しっくり来ていない段階での所業を残すべきか否か?みたいなことは最近よく考えてしまう。過去の習作や若気の至り的なアウトプットを、残すか、はたまた消してしまうか。大学デビューに成功したやつは、中高時代の陰鬱なSNSなんて消し去ったほうが調子が良さそうだが、過去に読んできたくだらない本を全て捨ててしまって、シュッとした本ばかりが並べられてる"見せ本棚"に対しては、どうしても顔をしかめてしまう。結局のところ、にわか、ハリボテはバレるというだけの話なのかもしれない。消すかどうかはさておき、古参者が過去の新参ムーブを恥じる必要はない。微分積分を学ぶ者の部屋に、掛け算九九のポスターが貼ったままになっているのは自然なことである。

 

 さらに、続ける道理のある、しなければならないことってなんなんだろうとも考える。仕事を辞めたところで、もはやたいした話にすらならないし、気合を入れて交わした約束(契約?)も、なんの意味もわからないまま反古にされてしまったいまとなっては、してはいけないことはあっても、マストな行為なんてないように思える。

 

 1年くらいはのんびり暮らせるだけの金はあるし、一旦仕事辞めてフラフラするか…とも思ったが、「冷静でないときに大きな決断はしないほうがいい」という有難いお言葉を頂き、結局サラリーマンのまま2018年を終える。元気になってきたようで実際はさっぱりダメであるが、それでもなんとかやっていかないといけない。そのためにも、なんの道理もないのに、飽きずに続けられることを、増やしていったほうがよさそうではある。

 

某日

 仕事終わりにトーフビーツ氏を呼び出し人生相談。段取りの悪い自分のせいで路上でスタバのコーヒーを啜ることになる幸先の良い滑り出し。

 瘴気にまみれたエピソードトークをひとしきり済ませた後は、漠然と音楽シーンというか、インターネットというかの話になる。

 後半、彼はしきりに「夢が広がりんぐ」という言葉を連呼していた。我々がかつてのインターネットに見た"夢が広がりんぐ性"はたしかに見えづらくなってきたが、負の側面が飛び出してき過ぎて相対的に引っ込んでみえるだけで、それ自体がなくなってしまったわけではない(と自分は考えてしまう)。そして、世間は意外とそこまで楽観的ではない。

 

某日

 仕事の合間に、カーシェアで借りたインプレッサで旧居と新居の間をひたすら往復する日々。文字通りほぼ抜け殻状態であった3DKの部屋であるが、引っ越し先の1Kに荷物を収めるのはなかなかに難儀であった。

 移動中、車内ではFMラジオから、当たり前のように友達の作った曲が流れる。ふと、自分が完全に外野になってしまったような気持ちに襲われる。

 自分はずっと音楽をしているつもりだが、可処分時間の分母そのものが減っているため、相対的にはめちゃくちゃスローペースな活動になっていることに気づく。1stアルバムを出したのは最近のような気持ちでいたが、もう2年も前の話である。

制作用のスペースとベッド以外は蛇足、みたいな部屋での生活をまたすることになるとは思わなかったが、他に特にしたいことがあるわけでもない。

 

某日

 新居の家具の配置を考える。長方形のスペースにたかだか2,3個しかない大型家具を置く組み合わせなんて対してあるはずもないのに、それがなかなかに決められない。なんとか最善と思われる配置を決定するも、仮にこの決定を人に委ねたら全くの違う配置になるのであろう。そしてその配置1つで景色は大きく変わる。

ちょうどネットでサンプル丸使い云々の話が盛り上がっていたが、16ステップのシーケ ンスに決められた音色のキックとスネアを置くだけでもそれはクリエイティブな行為である。

 

 退去時に「まだ若いんやから、負けずに頑張りや…」と意味不明な励ましを受け、比較的エモ目な別れを為した旧居の大家であるが、後日送付された現状回復の請求用紙には、重箱の隅をつつくような項目の数々とともに、予想をはるかに超える額が記載されていた。金銭の前に人情などまやかしである。食い下がるエネルギーもなく先方の言い値を支払う。スマホ1つで銀行振込ができる良い時代である。

 

 

某日

 youtuberの東海オンエアの動画でメンバーが、めいめいアプリなどで曲を作ってみる回をみる。

 曲を作った経験がない方がほとんどの中、アプリなどを使ってだれでも作曲という行為ができるということ、なんとか各自がこしらえた曲に対し、バカにしたりするようなことは一切なく、素直に感想を言い合っていることなど、いい動画だなあと思いながら眺める。自分はただこれをずっと続けているだけだなという気持ちに。なによりみな楽しそうにしているのがよい。

 一方で考えさせられたのが一点。MPC的なソフトで作曲したメンバーの作品が、制作過程を説明したところ、「要するに盗作?」と言った旨の指摘を受け、彼の作品のみミュートされてしまうのである。

 非親告罪の対象となる要件は満たしてはいないが、著作権侵害であることに変わりはなく、その指摘は間違っているとは言えない。さらに有名youtuberを狙う揚げ足取りの過激さも考慮すると、彼らが著作権面でグレーな領域に踏み込むメリットはない。

 違法/合法、ダサい/カッコいい、みんなやってる/やってない…いろんなレイヤーの議論はあるが、うやむやにしないことこそが自分へのけじめではあるとずっと考えていて、またそれに向き合ういいきっかけになったわけである。

 

某日

 楽曲を制作した、エルメスのwebプロモーションサイトがローンチされる。公開の連絡をもらったときにちょうどバーミヤンでチャーハンを食っていたため、レンゲを片手に内容を確認することに。

 大元のクライアントはフランスの人々であるらしいが、海の向こうの彼らは、このチャーハンを食ったら美味いと思うのだろうか。499円の晩飯と、それにゼロを3つ付けたくらいの価格の嗜好品のプロモーション。幅は広ければ広いほうがいい。

 

某日

 年内のイベントは全部断るつもりでいたが、お世話になった人の誘いは何個か受けて、そのうちの1つがラウンジネオのスーさんからのものである。

 

 人生で出たイベントの中で印象深いものを上げろと言われたら、真っ先にあげるのは、5年も続いたネオの周年イベントの第一回、2014年の"家-yeah-"である。

 まともなリリースもしておらず、自分の曲を知る客もろくにいない中、gladメインのタイムテーブルにぶち込まれ、なぜかウケて盛り上がってしまった光景はなかなかに忘れられるものではない。大げさではなく、自分の音楽が多数の人間に影響を与えうるという実感を初めて持ったのはこの日であろう。

 ブッキングしたトレッキーフタツキくんにしろ、スーさんにしろ、東京でのイベント出演のたいした実績はおろか、ハコとの縁すらない自分にぶち込んだのは、リスクテイクそのものである(その前日に京都でもライブをしたが、客は片手で数えられるほどであった)。

  音楽好きのような顔をして、規模感や付いてる客の数のみで判断をしてくるような人は多い。リスクを取り、アクトそのものを見てくれる人には頭が上がらない。

 最後のセイメイタイメイのメガミックスでハチャメチャになっているネオのフロアを眺めながら、いたく感動してしまった次第。ネオの店長お疲れ様でした。これからもよろしくお願いします。

 

 

某日

 届いたレトリカを読みながら、プラットフォーム以外何も残らない状態について考える。

 ある日youtubespotifyappleの類、配信プラットフォーム企業が一夜にして全て爆散するようなことがあったときに、そこにしかなかった録音物たちは、その時点でこの世では聴けない状態になるわけである。

 マスターデータさえあればいくらでも再アップロード可能なわけであるし、それは大した問題ではない、と考えることもできるし、一方で、だからこそレコードやCDみたいな、フィジカルな形で作品を残すべき、という話をする人もいるであろう。

 "音楽を聴くこともできる物体"としての録音メディアまでを作品とするのか、どんな形であれ誰かに聴かれた時点で、もうすでに作品として成立しているとするのか、自分はどっちなんだろう、としばらく考えたが、未だにはっきりと答えが出せないでいる。

 ライブでの体験共有もいいが、本質的には一人ミックスダウンされた音源を聴く行為が好きである。それなのに、その行為を自分はどのような形でするのが一番しっくりくるのか、はたまた、自分の作品がどのような形で聴かれるのが一番健康的なのかは、未だによくわからない。しばらくは考え続けないといけない。

 

12月某日

 トーフビーツリリパで年内イベント納め。

 先輩のトーフビーツと後輩のパソコン音楽クラブ、多大な影響を現在進行形で受けている二組と、こういった形で年末を迎えられるのは幸せである。やっていく上で直面する世知辛さみたいなものばかり目立ってくるが、やはり夢は広がりんぐしていると思わずにはいられない。音楽的にも、人間的にも、自分にはまだ改善の余地というか、伸びしろみたいなものがあるから頑張らないといけない。そういう気持ちが出てきただけでも、2018年は御の字ということにしたい。

 

 体重が10kg近く落ち、目に見えてやつれた夏から考えると、引っ越しも落ち着き、健やかに暮らしている風ではある。とはいえ、調子の悪さは否めない。そして、調子の悪さを盾にサボったり、大事なことをなあなあにしてしまっている自覚もあり、それが悩みの種でもある。

 「結局なんとかすんのは自分なんだよな、誰も助けてくんねえし…」などと考える日々であるが、いざ自分の人生を振り返ってみると、なるほど本当に困っている人を救った記憶などさっぱりないのである。情けなさすぎて笑えてくる。"情けは人の為ならず"、深い!

 

(年内に書くつもりが年を越してしまいました。2019年もよろしくお願いいたします。)